東京都市圏 PT 調査から見えること

みんなの未来構想

斉藤親

未来構想PF 理事

〇はじめに

昨年春開催されたある講演会で、恩師でもある中村英夫先生から、これからのインフラ整備の心構えとして 9 項目が示された(末尾参照)。本誌読者の中に聴講された方もおられるのではと思うが、その第1は、「需要追随から需要創出へ」というものであった。昨年末に国交省から公表された「平成 30 年東京都市圏パーソントリップ調査結果」を見て、改めてこの言葉に思いが及んだ。

〇総トリップ数、30年前の昭和63年の水準まで落ち込む!

同調査結果によれば、図 1 が示すように、調査開始以来初めて総トリップ数が減少に転じ、それも半端な減少ではなく、前10 年比13 %減、平成を飛び越えて、30年前の昭和63 年のそれをも下回ってしまったのである。相変わらず10 年毎に 200 万人を超える人口増加を続けている状況下でのこの結果に、驚かれた方も少なくなかったのではないか。

何故、このようなことになったのか?私は、公表内容の詳細と若干の補足的なデータを重ねながら、その原因を追ってみた。少し荒い考察結果を下記に示すが、結論から言えば、そこに見えたものは、当たり前に今の時代の潮流から起こっている幾つかのことが、たまたま幾重にも重なった結果と言えるものだった。

〇ヒトはこれまでより動かなくなった

今回の総トリップ数の大幅減少は何故起きたか?端的に見れば、 図 2 にあるように、「外出率の低下」と(外出者)「1人当たりのトリップ数の減少」の相乗効果から生まれたもので、要は、ヒトはこれまでより動かなくなったということである。

それでは外出率は何故低下したのか?公表資料にはないが、私は、丁度この10 年間に激変した「あること」が大きく影響しているのではと見ている―それは、図 3 に示す「スマホの劇的な普及」である。このことは、公表資料の 図 4 年齢階層別外出率の変化で見てとれる。 10年前の黄土色と今回の紺色の折れ線グラフをよく見ると、スマホの普及の遅れがちな70歳以上の高齢者層と、19歳未満の未成年層で外出率の変化が余りない一方、その間の成人年齢層が一様に減少しているという点である。この他、「所得格差の拡大」が外出率の低下に寄与した可能性もありそうだ。図 5 は、非公表だが、今回調査で初めて尋ねた所得に外出率をクロスさせたもので、600万円未満から所得と外出率に比例的関係がある。低所得層の増加は全体の外出率を押し下げることになるのである。

次に、1人当たりのトリップ数は何故減少したのか?図 6 の性別・年齢階層別・目的別の1人当たりトリップ数からは、大きく二つ図 3 スマートフォン所有率の推移の要因が考えられそうだ。

一つは、女性の通勤トリップ増に現れている就業の進展であり、図 7 , 8 で示す通り、この10年間で就業者数で40~55 歳の中高年、就業率で人口減している20~40 歳の上昇が目に付く。

このため成人女性のトリップは、複数回になりがちな私事目的から、1日1往復のシンプルな通勤+帰宅によりシフトし、 図 9 の女性私事目的の多くを占める買物トリップが、帰宅途中の駅やネットでの買物、休日の買いだめなどに吸収され、全体のトリップ数減少に繋がったものとみられるのである。また、もともと就業率の高い男性については、 図 10 にあるように業務目的の激減が見られ、これも「スマホの普及」同様の業務のIT化等に起因し、本人によるヒトとの対面やモノの搬送などが減っていることによるとみられる。図 11 の自動車による業務トリップの激減(半減以下)ぶりは、これを裏付けるものといえよう。以上、スマホの普及をはじめとしたIT化や女性の就業の更なる進展など、既に我々が実感している社会の変化こそが、実は、(私には)驚きのPT調査結果を生んだ正体ではないかと見ている。

〇鉄道のトリップは微減に止まり、分担率を上昇させたが。。。

最後に、鉄道のトリップについて触れておく。図 12 は交通手段別のトリップ数を見たものだが、全ての交通手段で減少する中で鉄道は3%の微減に止まった。理由は上述でも明らかだが 図 13 にもあるように、鉄道依存の高い通勤トリップにおいて女性就業の進展からほぼ横ばいで下支えしたからであろう。

逆に、業務、私事トリップで手段依存度の高い自動車は、19%の大幅減となり、交通手段別分担率は、 図 14 の通り、約1/3を担うこととなった鉄道が自動車に大きく水を開ける結果となったのである。

鉄道にとって今回の調査結果は、「数で横ばい・率で上昇」となったが、私の印象としては「かろうじて結果オーライ」という感が否めない。というのも、今後 10 年、 20 年を見通せ ば、一つは、地球上でも稀有の大都市圏人口増を続けているモンスター東京が、間もなく人口減少時代に入ることである。千葉、埼玉、神奈川の順で人口減に転換し、東京も概ね 10 年後にはその時を迎えると言われている。二つは、女性進出と高齢者の就労=通勤交通も、間もなくアッパーを迎えること。三つは、IT化の更なる進展と、在宅勤務やサテライトオフィスなどの働き方改革は、明らかに鉄道トリップの縮小に作用するということである。

〇終わりに

ヒトは減り動かなくなっていく―このトレンドを前にしたとき、長年右肩上がりの都市交通に関わってきた私の頭の中を、本稿の冒頭に触れた中村先生の第一条「需要創出」という言葉がよぎったのである。

(門外漢が恐縮だが)鉄道を例に、この需要創出の観点からの思い付きを許して頂ければ、安直だがまずは、量が低下するなら質(サービス単価)の向上はどうか? 混雑から解放された車両の優等化、有効利用は、民鉄ですでに動き出しており、更に女性の化粧&ドリンクブースなど新サービスも多々ありそうな気がする。本格的な需要創出なら、やはり動か ないヒトを動かす腕力が必要だが、 Eコマース・IT化の進展に立ち向かうには、「モノでなくコト」「ヴァーチャルでなくリアル」で勝負と言われている。駅の絶対的アクセス優位性を生かして、駅とその周辺で「コト」を起こし「リアル」に体験してもらう企画は色々ありそうだが、これはその筋の専門家に譲る。私の分野で大事なのは、重い腰を上げさせるだけの「コトをリアルに体感する」魅力あるエキ空間を用意することか? 欧米の主要駅では、今、思い切った駅空間が本当に次々に出現し、いつの間にか我が国が遅れを取っているという感がある。インフラとしての鉄道について、「需要創出」の観点から、本文上述の思い付きはご容赦頂き、きちんとした将来展望を持ちたいと思うところである。

(付記)中村先生が提示された「(インフラ整備における)今後の大規模プロジェクトの方向」

①需要追随⇒需要創出 ②新規建設⇒既存施設更新・再開発 ③費用便益 (B/C)重視⇒総合的評価④地域住民の便益⇒来訪者の感じる魅力(地域ブランド) ⑤ 公共投資中心⇒民間の資金、能力の活用⑥縦割り的な単独事業⇒多分野の総合的プロジェクト⑦投資の経済効果⇒文化・産業諸活動との相乗的な波及効果 ⑧国内需要中心⇒海外市 場視野⑨耐震強化⇒国土強靭化