守・破・離 based on 本

ひと

JR東日本 執行役員
建設工事部長 齊藤 誠

この春に当社建設部門の中期ビジョンを作成したが、その作成過程で「さて、題目をどうしようかと」いう議論になった。最近の経営用語はカタカナばかりなので、あえて「和風でいこう、日本語で考えよう」と提言したところ、後日、担当者から「守・破・離はどうか」という提案がされた。千利休の教えを和歌にしてまとめた「利休道歌」の最後の歌、「規矩作法守り尽くして破るとも離るるとても本を忘るな」から取った3文字である。武道や茶道をやっていた方ならば、型を自分のものとしていく修行過程を示す教えとして馴染みのある言葉であろうが、経営ビジョン・計画を策定するにあたっても、組織としての考えを端的に示し、施策を分類して考える上でも役立ち、腑落ちする言葉と感じた。
・「守」とは「師の教えを忠実に守りそれから外れぬように精進して身につけろ」
・「破」とは「今まで学んできた教えから一歩進めて他流の教え。技を取り入れることを心掛け、師から教えられたものに拘らず、さらに心を技を発展させよ」
・「離」とは「破から更に修行して、守にとらわれず破も意識せず、新しい世界を拓き、独自のものを生み出せ」
という意味である。守るべきルールや技術、破るべき仕組みや風土、離れて産み出すべき新しい価値はどの組織にも存在すると思う。そして、忘れてはならない「本」とはその組織の理念であり存在価値であろう。流行りのカタカナでいえばパーパスか。このように、「守・破・離basedon本」で頭を整理すると、さまざまな施策の位置づけが分かりやすい。なかなかいい言葉を探し出してくれたと思っている。
ところで、組織とは、社会環境の変化を合わせて、または先取りする形で柔軟に変化していかなければならないが、この「変化」を促す言葉として「改善、改革、変革、革命、・・」が使われる。詳しく調べたわけではないので感覚的だが、日本が元気だった90年代は、トヨタのカンバン方式等にみる「改善」事例が囃され、会社では小集団活動による「改善」が活発だった。不況期に入り「改革」に変わっていく。業務改革、構造改革、最近では働き方改革か。「リエンジニアリング」という言葉も一時流行ったと記憶する。近年は、より大きな変化を施すべく「変革」となり、さらにはデジタル革命、モビリティ革命、ビジネス革命等々、「革命」と聞くとちょっと恐ろしい感じもするが、この言葉もよく見るようになった。時代とともに、環境の変化が激しくなっており、あるべき姿と現実の姿とのギャップが大きくなっているからだろう。危機意識の強さの表れでもある。
「改善」は既存の仕組みを活かしつつ変えること、「改革」とは既存の仕組みを抜本的に変えること、「変革革命)」とは既存の仕組みに捉われずに新しい価値を創ること、と大きな意味で定義すると、守・破・離の教えに重ねて考えられないだろうか。「改善・改革」は「破」、「変革・革命」は「離」の領域になろうかと。これからの日本社会、改革・変革を強く進めていかねばならないことは間違いないが、利休の言う「守」とともに「本」を忘れないように意識して行動したい。そして、「本」の中には、「和の心」を忘れないよう願うものである。