人口減少における東京都市圏の再構築に向けて

まち

一般社団法人計画計量研究所シニアフェロー

日本大学客員教授(未来構想PF 副会長)

矢島 隆

(1) ふりかえってみると20 世紀は戦前期と戦後期を通じて、経済成長の時代であり、全国人口増加の時代であり、都市化の時代であった。都市計画の主要かつ緊急の目標は、特に大都市に集中する人口と産業の受皿を造ることであり、関連する産業基盤施設、交通基盤施設、生活基盤施設、防災基盤施設などの整備も緊急の課題であった。都市化に伴って、大都市の地価は高騰を続けたので、住宅地、工業用地の開発は、地価の安い郊外または埋立地へ向かった。住宅地についていえば、緑豊かで健康的な郊外で子育てを行い、一家の稼ぎ手は職場へ鉄道で通勤することは戦前に始まり、戦後に引継がれたライフ・スタイルであり、郊外の宅地と一戸建てのマイホームを所有することは勤労者の夢であり、有望な資産保有形態でもあった。鉄道各社は20世紀を通じて新線敷設、既設線の改良、鉄道輸送力の増強に努めた結果、東京都市圏は質量とも世界に誇り得る郊外鉄道網とこれに相互直通する地下鉄網を創り上げた。その整備手法としては日本型のTOD(Transit Oriented Development)が特に大都市私鉄により多用された。東京都市圏は鉄道によって創りあげられ、その活動は鉄道によって支えられていると言って過言ではない。東京都市圏は世界的にみても稀有なトランジット・メトロポリスなのである。

(2) 21 世紀に入って浮上した、新たなメガトレンドは、製造業の空洞化および全国人口の減少ならびに高齢化である。この結果地方都市においては既に都市圏人口の減少、郊外市街地の縮退、中心市街地の活力低下が顕在化し、様々な努力にも拘らず、その傾向は停まるところを知らない。

(3) 東京都市圏も地方都市で既に顕在化している傾向を免れることはできないが、その程度は相対的に小さいだろう。世界都市東京は、全国的にみて、抜きん出た活力を維持し続けるからである。東京都市圏においても、郊外市街地の縮退は、基本的には遠郊から始まるであろうが、潮の引くように外側から一様に縮んでゆくのではない。例えば遠郊の高台にある住宅地で、団塊の世代を中心にほぼ同時期に入居した場合は、多数の空き家が生じ、住宅地が縮退するクールエリアになる。近郊で駅に近い住宅地では、親世代から子世代への交代が起り得るし、新たな住宅開発が行われれば若い世代が入居する。これらはホットスポットと呼ばれ、市街地は維持更新される。遠郊ではクールエリアが多く、近郊ではホットスポットが多い。こうしたまだら模様の縮退はマクロ的には交通利便性により左右されるが、住宅地の整備時期、居住者の年齢層、敷地規模などのミクロ的な条件によっても大きく異なると考えられる。

(4) 東京都市圏を将来にわたって持続可能なトランジット・メトロポリスに再構築するには、鉄道を軸としたパーム(掌)フィンガー(指)の骨格的都市構造を維持、発展させることを基本として、郊外部を中心に土地利用と交通の両面から部分的に創り直すことが必要であろう。そのためには三つのキーコンセプトが有用であろう。第一は、鉄道によって直接サービスされている沿線地域(トランジット・コリドー)に居住のみならず総合的な都市機能の高密度な集積を促すことである。個々の鉄道駅を豆粒とイメージしてみると、トランジットコリドーは豆粒が連なって1 つのさやに納まった「えんどう豆」のようにもイメージできる。第二は2 つのトランジットコリドーに挟まれた「間の地域」の再生である。「間の地域」では残存する水と緑の自然環境および都市農地を保全するとともに、人口減少の著しい郊外市街地、点在する公共公益
施設ならびに遊休資産の再編成・再利用を行う。第三に、交通面について、自動車に過度に依存しない郊外部のモビリティの強化・確保である。この場合、先ず念頭に浮かぶのは鉄道駅からの枝線公共交通機関として、都市モノレールや新交通システムを導入し、あるいはバス網を強化することであろう。しかしながらこれらのシステムは、中量輸送機関と分類され、一定程度以上の輸送密度が路線上に存在しないと採算が取れない。郊外部においては既存のバス路線すら存続が危ういことを想起すべきである。コミュニティバス、デマンドバスあるいはデマンドタクシーといった選択肢にも採算性の壁があることは明白である。決定的な解と言うものではないが、有望なのは、既に複数の事業者が営業を開始している会員制レンタカーシステムであるカーシェアリングではないだろうか。様々の公共交通システムとカーシェアリングの組み合わせが将来の自動車のみに依存しない郊外部のモビリティを担うであろう。

(5) 以上述べてきたことは家田仁先生と筆者との近著(概要下記)の中から主題に関連した部分を抜粋要約したものである。興味を持たれる方は、御一読をお薦めする次第である。