デジタル社会の公共 交通

みんなの未来構想

内閣が「デジタル田園都市国家構想」を発表するなど、未来の国土計画はデジタル化の潮流によって変わりそうだ。公共交通に期待される役割やその在り方も変わることだろう。その変化の一面を展望してみたい。
東京圏への一極集中的転入超過を抑制し、デジタル技術によって大都市の活力・利便性と地方都市のゆとり・豊かさを両立した田園都市を形成することが構想されている。コロナ禍の社会変容によって大企業の職員が地方でリモートワークをすることは珍しくなくなってきたことを考えると、地方都市に居住しながら東京のオフィスと連携しながら仕事をする日常が定着する未来は遠くないだろう。それでも、人がリアルで面会することの重要性は変わらない。必要な時には東京に日帰り出張が可能な交通環境がデジタル田園都市の必要条件となるのではないか。その場合、東京での仕事時間を考慮すると4時間程度で確実に往復可能であることが望ましい。そのための交通手段はパーソナルモビリティではなく、定時性に優れた公共交通の役割となるだろう。
このような時代には移動体験ニーズの多様化も大きく進むことが想定される。観光目的の旅客とビジネス目的の旅客が混在しないようにデジタル技術で誘導することや、移動中のWeb会議やプライバシー確保のための時間や空間を適切に提供することなどが期待される。すなわち公共交通は人や物を運ぶだけの役割から移動中を含む総合的な体験提供サービスへと進化することが想像される。合理的な進化のためには大胆なダイナミックプライシングなども必要と考えられるが、移動についての社会理念を拡大することが、国民の合意形成を図るための道標となるだろう。
デジタル技術と社会理念拡大の融合によって、気候変動対策へ向けて人々の行動を誘導することが大きな課題となってくる。移動に伴う各人のCO2消費量が明示可能となる未来も遠くないだろう。その時、交通手段は移動体験の豊かさとCO2消費のバランスによって選ばれるだろう。公共交通が備える多くのメリットを維持向上させるためには、カーボンニュートラル化を推進することがよりいっそう急務になると思われる。

㈱日建設計 代表取締役社長 大松 敦