鉄道構造物の長寿命化と情報の集約

みんなの未来構想

JR東日本 構造技術センター所長

野澤伸一郎

数年前、現在の土木研究所の西川理事長が、道路技術者への啓蒙を目的として、「鉄道橋はなぜ長持ちか 」という論説を作成し、土木学会でも披露された。その後、鉄道技術者向けにも講演をされ、鉄道施設協会誌 2020 年 2 月号にその概要を含めた記事が掲載されている。西川理事長は、鉄道橋が長寿命なのは 1) 通行車両の重量をコントロールできる 2) 鉄道橋では塩を撒かない 3 排水が必要な路面が存在しない 4) 設計・管理が内部化されている 5) 車両が必ず軌道上を走行するを 主な要因として掲げられた。

令和元年度の土木学会において、第107 代林会長 の特別委員会として「インフラメンテナンス鉄道 特別委員会」が開催された。各鉄道会社からアンケートを基に鉄道のメンテナンスの現状を分析し、今後のあり方を提言することが主な内容であった。また、鉄道は歴史があり 100 年以上使い続けている現役の構造物も数多く存在するので、追加として鉄道以外のインフラに参考となる事柄がメッセージとしてまとめられた。

その一つに、「メンテナンス・建設に関する技術情報の一元化」があった。上記西川理事長の唱える要因の 4) にあたる。土木学会の報告書では、長寿命化の重要性が一層高まる中では 、技術情報を組織の壁を越えてより広く共有し一元的に管理できる仕組みを構築する必要がある、と記述されている。

「組織の壁を越えて」とあるものの、鉄道会社の規模によって、維持管理に特化する組織 以降施設 と建設プロジェクトを専門とする組織 以降 建設 はいろいろな形態があると思う。施設 と建設がいっしょになればよいわけではなく、それぞれの使命を果たすべく、会社の規模や置かれている状況に応じて組織されていると理解している。

「施設」は、日々の鉄道輸送を支える安全を第一とし、その上で効率的に維持管理するにはどう したらよいか考えるべきであり、「建設」は、明日の鉄道輸送や駅の在り方はどうあるべきか考え、プロジェクトの効率的な推進方法の構築に責任を持つべき、と思っている。

その中にあって、構造物の長寿命化には計画、設計、施工、検査、補修の技術を集約できる部署が必要で、 JR 東日本においては構造技術センターがその役割を担っている。最近でも鉄桁製作のディテール集を維持管理面からも改正するなど、検査への同行はじめ維持管理情報を大切に、新設構造物を対象とする社内のマニュアルを改良するほか、様々な技術支援の中で維持管理情報の活用を 実施している。構造物の長寿命化に役立つだけでなく、鉄道改良工事においても既存構造物の活用に大いに役立っている。

丁寧な設計・施工と適切な維持管理が構造物の長寿命化の要であることは間違いなく、様々な立場で構造物に係っている人間の努力の結果であるが、「技術情報の一元化」の部分は構造技術センターで責任を果たしたいと考えている。