年頭所感

ひと
再びアナログの時代か

会長 山本卓朗

明けましておめでとうございます。

昨年の暮れ、メディア社会学を専門とする某教授に、これからの広報・周知活動の在り方についてご意見を伺いました。師曰く「5年前ならばホームページ・facebook・ツイッターなどを駆使した戦略をお勧めしましたが、最近は流れが変わっていますね。それらのソーシャルメディアは使うのが当たり前になって、情報が溢れかえり、あっという間に消えていくようになってきました。Web などのメディアに頼りすぎるのは危険で、もう一度昔ながらの紙媒体や人を介した伝達なども大切にした多様な作戦が必要です」と。

私たちの未来構想PFは、情報をかき集めてコピペすることを良しとせず、ワークショップ中心に”自ら考えること”を大事にした研修や、仲間内ではない人の交流を目指しています。これからはデジタル的な情報交流も大切にしながらも、アナログ的な幅広い人の交流をバランスよく取り入れた活動戦略を立てていきたいと思います。

(元土木学会会長)

在来鉄道網の明日はいかに

理事 只腰憲久

今年は国鉄改革30年目の節目にあたる。この間、鉄道経営を国鉄から引き継いだJR 各社では民間企業としての活力が引き出されたことは疑いがない。昨年のJR 九州の上場は、鉄道外の分野を含む多角化にも力を注いだ成果であろう。

その一方で、北海道では、路線の多くが鉄道としては維持できない段階まで追い詰められた。東西250キロとフィールドが小ぶりで山がちの四国では、高速道路網の充実もあって厳しい経営を強いられている。電電公社は東西2分割、高速道路は全国を3分割され、東京圏と中部圏、近畿圏が分け合って全国ネットを支えている。最近の北海道新幹線の例に見られるような根元受益の帰属をみても、鉄道の6社分割は賢い選択だったとは言えないのではないか。

また、新幹線と並行する在来線は、珍妙な名称の三セクに切り売りされ、そこを走らざるを得ない貨物会社は安全と効率の面で苦戦している。モーダルシフトを国策とし鉄道輸送をその柱と頼む政府の施策の矛盾が露呈しているのだ。

「国土強靭化」が来年度の予算のキーワードだという。その動きの中で、逆に国土を縦横に結んできた基幹インフラである在来鉄道網の脆弱化が進んでいる。道路と鉄道があいまって交通需要を「しなやかに」分担するモデルを築けないものだろうか。

(元東京都都市整備局長)

新幹線プロジェクトの迷走

理事 森地 茂

新幹線プロジェクトは、政府が決めると全国版のマスコミで一斉に批判が起こるものの、営業が始まってからは批判されたことがない稀有な公共事業である。ところが、現在検討中の北海道新幹線と北陸新幹線の延伸は、その輝かしい歴史に終止符を打つこととなり、開業後、または建設開始後に批判が起こる最初の事例になりそうである。また、その後の新幹線事業の推進を妨げる先例となることが心配である。

北海道新幹線の札幌駅について、JR 北海道が現札幌駅と離れたところを提案している。駅のホームに長時間列車を留置しておきながら駅容量が足りないと言い、新幹線の開業後も在来線の現ダイヤを変えない前提で、容量不足と主張する異常さである。

北陸新幹線の延伸は、小浜市から丹波の山中を南下し、空間確保が難しい京都市内を縦断して、京都駅と接続するルートをJR 西日本が支持したという。北陸地域にとって、名古屋と京阪神の両地域への時間短縮を実現する米原接続を否定してである。
これらの案が社会的に望ましいと両JR の専門家たちは考えているのであろうか? 新幹線整備の上下分離で、建設費が公的資金で賄われるが故のモラルハザードではなかろうか?

(政策大学院大学政策研究センター所長)

バイクの海

理事 田中滋夫

昨年末、大学の調査の手伝いでベトナム・フエ市に5年ぶりに行ってきた。

解放以来数年毎に訪れているのだが,最初は自転車、その後はバイクが都市交通の基幹であった。今回はそのバイクが激増し、限界に近い状態でバイクの海に溺れていた。そのせいか街なかでもバスは殆ど見かけられなくなり、鉄道はもともと壊滅状態であるので、公共交通体系は崩壊しているといわざるをえない。

それはそれでなんとかなっているのだが、移動の自由は絶えざる事故の危険とともにしかないし、都市間交通、重車両移動などやたら時間を必要とする非効率下にある。

当たり前かのように受け止めている公共交通体系が、社会インフラとして如何に重要なものか、それが失われた環境に身を置くとひしひしと見えてくる。

都市と公共交通体系、その密接な関係に改めて思いをはせた年末であった。

(株式会社都市デザイン代表)

“えきまち”の形は十文字

理事 矢島 隆

大都市ターミナル駅の改良整備は、鉄道にとっても街づくりにとっても大きな課題となっている。

ターミナル駅では中核であるJR の線路・ホームが何本も有るうえ、街側に私鉄の駅が腹付けで併設されている場合が多い。さらにその街側に駅ビルやターミナル・デパートが立地している場合もある。街の側から見ると、両側の市街地は巨大な幅広のターミナル駅で隔てられているうえ、駅ビルやターミナル・デパートが屏風のようにそびえ立ち向こう側の市街地への往来は妨げられ、向こう側の眺めすらままならない実情である。

街にとっては、両側の市街地を快適に連絡する歩行者軸の整備が街全体の活性化にとって是非必要であり、この歩行者軸整備は鉄道経営にとっても重要であることは論を俟たない。この“えきまち”の関係は、鉄道を縦軸とすれば、市街地連絡歩行者軸はこれに直交する横軸に当たり、“えきまち”の形は十文字になるのが自然である。

この快適な歩行者軸の空間は駅によって地下道の形または上空デッキの形を採ることになるが、計画設計上重要な点が2つある。第一は、歩行者空間を快適であるだけでなく、魅力的で賑いのあるデザインとすることである。上空デッキの場合は、植栽を設置することにより快適度と魅力度を高めることが可能である。第二は、街並みのレベルから地下または上空レベルの斜め動線・縦動線および駅内部における各レベルを連絡する縦動線の存在が、街や駅を歩く歩行者にとって視認しやすく利用しやすいよう、設置位置を選定し、デザインすることである。例えばアトリウム空間を突き抜けるエレベーターやエスカレータ、透明な縦シャフト内の上下するエレベーターなどは、“えきまち”空間のシンボルとしても重要であろう。

年頭に当たり、“えきまち”の質の高い改良整備により、駅と街の賑わいと活力を高めることを改めて目標として掲げてはどうだろう。

(財団法人区画整理促進機構 理事長)

「自動運転」に思う

理事 斉藤 親

昨今、自動運転の話題が喧しい。もとより、自ら手足を使って運転してこそのクルマと思っていた私(の世代?)は、常々「不思議な技術革新」と見ていた。

ある勉強会で、大手自動車メーカー研究所の方に、「自動運転の目的は?」と尋ねたところ、「ヒューマンエラーの解消+新たなサービスの展開」とのことだった。前者は世の中のニーズとして良く分かる。

が、従来の自動車へのセーフティ機能の搭載という形で、既に進展を見せており、むしろ自動運転とのセットには矛盾もあるように私には思えた。何故なら、説明によれば自動運転は、少なくとも当分の間は、高速道路や一般道専用レーンなどの制御性の高い路線や地方の交通量の少ないエリアなどに走行空間が限定されるであろうとあり、エラー事故の起こりやすい街中は、最も自動運転が難しそうというからだ。

やはり怪しい話か、と思いつつ「新たなサービスとは?」と尋ねると、思いもよらぬ返事―ラスト・マイルモビリティ―という言葉が返ってきた。それは、自動車からではなく、現在のバス・路面電車などの短トリップの公共交通からのアプローチというもの。現在もバスは、課題を抱えながらも、幹線バスからコミュニティバス・効率小型バス、更にはICT活用のオンデマンドバスへと「ラスト・マイルの交通手段」に向けた努力が重ねられているが、これを自動運転―ドライバレス(オンデマンド)シャトル―へと展開したいというのだ。最終イメージは、自動車の超小型化を前提とした専用道ロボタクシーとのこと。因みに昨今の報道にもある通り、超小型車両の追求もかなり進んでおり、長さ2m前後、幅1m弱までが実用化に近づいていると聞く。

自動運転の公共交通への展開―そこには技術的課題に加えて、道路に関する条件整備など多くの難問が横たわっていようが、それでも、将来の都市交通に夢を与えるテーマに思えてきたのである。

(東日本旅客鉄道株式会社 技術顧問)

整備新幹線の費用対効果(B/C)について

理事 金澤 博

北陸新幹線は一昨年春に金沢まで開業し、順調な運行を続けています。とくに富山、金沢では、内外の観光客の著しい増加や有力企業の組織の一部が県内移転するなど、多くの恵みがもたらされています。

一方で、昨年暮れには敦賀から小浜・京都・新大阪の概ねのルートが決定され、整備に向けて一歩進みました。一連の議論の中で気になるのは(B/C)の指標です。これは大雑把に言えば、費用である分母Cは建設費、効果としての分子Bは旅客の時間短縮効果と鉄道事業者の運賃収入の増額で構成され、1.0以上なら効果があると評価されるものです。

しかし、鉄道新線のもたらす効果には、これ以外にも観光収入の増加や経済活動の活性化、交通ネットワークの充実による大規模災害時の代替機能の向上など、数値化が困難ではあるけれど大切な要素があります。古い記憶ですが、洪水や土砂崩れなどの防災事業の効果(B)には災害が発生した場合の損害額が計上され、(B/C)が6や7になる採択事業がありました。これに比べると、鉄道の(B/C)は良くて1.1程度で、まことに控えめです。

新幹線をはじめとする鉄道プロジェクトに対し、もっと光の当たる評価を!と考えます。

(大成建設株式会社)

二つの課題の克服

理事 溝畑靖雄

穏やかな参賀日に恵まれ2017年が幕を開いた。

4月でJR 発足30周年を迎えるが、報道によると鉄道の課題は海外進出と赤字ローカル線の廃止だと伝えている。前者は新幹線の輸出促進であり後者はとりわけ北海道において顕著になりつつあるロー
カル線廃止問題である。

局地的なローカル線と国際的な新幹線が同列に課題と取り上げられているのも鉄道の持つ幅の広さと深みを感じさせられる。どちらも今年度の大きな課題であるが、とりわけインドの新幹線プロジェクトは、文字通りプロジェクトの成否を占う極めて重要な年になる。東海道新幹線とほぼ同じような距離でほぼ同じ年月をかけて完成させる事が、昨年12月の日印首脳会談で確定したものであるが、日本とインドの友好関係を促進する歴史に残る起爆剤となることを強く祈念したい。

一方、ローカル線の問題は小生の入社前後から始まり、国鉄改革を経て少子高齢化・過疎化の進展などの影響を受け一段と厳しさを増してきたと言えよう。つまり、それだけの時間をかけて取り組んだ結果でもあるだけに、解決策が容易に見つからないが時代の変革を見据えて地方の足を確保する一翼を担う役割を関係者に期待したい。
この二つの課題の先に希望の灯をいち早く見たいものだと思う。

(ジェイアール東日本コンサルタンツ株式会社 顧問)