都市鉄道駅と周辺開発

まち

政策研究大学院大学

政策研究センター所長

森地茂

日本の都市鉄道駅と周辺開発は世界的に有名であるが、その実績を踏まえた更なる進化型とは何かが問われている。以下、駅と周辺開発に関して、3つの論点を提起したい。

1.駅周辺開発が最大の景気対策事業だった欧州を参考に!

石油危機の直後の1975 年、たまたま同時期に、ドイツ国鉄とフランス国鉄が鉄道旅客の意見調査を実施した。航空と自動車に旅客を奪われつつあった時に、鉄道のサービス向上策を練るためである。それまで、旅客が求めるのは運賃と移動時間の短縮だという鉄道関係者の思い込みに反して、駅の快適性がそれ以上に求められているという回答が、両調査に共通していた。鉄道需要の減退により活気を失い、荒廃しつつあった駅の構内と駅周辺の改善が、それから始まったのである。

1981 年、米国のレーガン大統領が就任すると、サッチャー首相、中曽根首相とともに、民間活力の活用による景気対策を打ち出した。その対象プロジェクトのほとんどは、駅周辺の再開発と、駅構内の商業施設導入を伴うリニューアルであった。”Japan as No. One”と日本が浮かれているとき、欧米では、長く続く不況からの脱出策として、駅周辺開発が進められたのである。特に欧州では公共事業のほとんどが、この種のプロジェクトであった。

しかし、日本では、景気対策として、また民活の対象として駅と周辺開発は取り上げられてこなかった。連続立体交差事業や区画整理事業は合意形成に時間がかかりすぎて、短期的な景気対策にならないというのも理由であろうが、デフレが20 年間も続いたことから考えると、長期的な経済対策、すなわち多くの民間投資と消費を誘発する公共投資対象として、アベノミックスの中で駅と駅周辺の再開発は重要な案件と評価されるべきであろう。

2.都市開発と駅容量の整合性を保つ仕組みを!

都市開発の規制緩和の結果、東京で高層建築物が数多く建設され、駅の容量を超える事例が増えている。容積率はインフラの容量制約を考慮して定められてきたが、鉄道はそのインフラに含められてこなかった。一方、駅の計画は、駅勢圏の既定の容積率を考慮した需要予測に基づいて計画されている。そのため、嵩上げされた容積率の高層ビルが建設されると駅の拡張を迫られる。問題は、高層ビルの建設は1棟200-300 億円の費用と、2-3 年の期間で完成するのに対し、地下鉄などの駅の拡張にはその2-3 倍の費用と、手続きや予算獲得に10 年程度は要することである。すなわち、容量を超える乗客の為にプラットフォームや改札口、通路に人があふれる危険な状態が何年も続くという事態が起こりうる。勝どき駅や豊洲駅のような改造を求められる駅はすでに数多く、そこに更なる需要が押し寄せるのである。

このような問題を解決すべく、運輸政策研究機構に、学識経験者、鉄道局、都市局、東京都、東京メトロ、UR都市機構で構成する調査委員会を設置し、地下鉄駅の余裕容量の分析と対応策の検討を実施してきた。最初の具体化として日比谷線の霞が関・神谷町間の新駅建設が費用負担制度とともに決定された。ビル開発者が容積率上乗せと引き換えに費用の一部を負担し、補助金と合わせて駅を整備するというスキームである。

しかし、このスキームがどこでも通用するわけではなく、今後、高層ビル建築に際し、都市再開発側と鉄道側の情報共有、整合性のとれた計画を立てる仕組み、そして、それぞれの場所で実現可能な負担制度を検討する仕組みが求められる。

3.周辺商店街をも活性化させる駅機能に着目を!

駅の大規模改良は、① 新線の導入、施設の老朽化、容量不足など鉄道運営上の目的からなされ、その際、快適な空間形成をついでに行うという場合、② 駅の商業機能の拡充、すなわち旅客の利便性向上と関連事業収入を目的とする場合、③ 自治体の要請によって、費用負担を求めて都市の玄関としてふさわしい景観や都市機能の導入を目的とする場合などがある。
近年のそれぞれの代表的事例としては、 ① 防災性向上を一義的な目的としてターミナル機能の向上を図る新宿駅南口、② 大規模な商業機能拡充を伴った名古屋駅、大阪駅、③ お城への景観を重視した姫路駅などであろう。

これらの事例は、従来のホーム増設、駅ビル、駅前広場、あるいは自由通路の整備とは、比較にならない規模と斬新な空間を伴っており、それ故に都市に与える影響も格段に大きい。また、このような類型にとどまらない事例として、東京駅と駅を囲むエリアのプロジェクトや、渋谷駅と周辺街区の再開発などは、駅の改良というより都市の大改造の一環としてのプロジェクトである。駅中ビシネスに対する商店街の反対論も多い中で、中心商業地の地盤沈下を背景として、周りの商店街の再開発と共同の事業を展開している大分駅ビルの事例も興味深い。都市鉄道ではないが、商店街から見たまちの活性化のための駅の役割の再認識である。

例えば、新橋駅は、その四方に日本を代表する商業地銀座、本社機能の集積する業務地内幸町、昭和の香りを残す烏口の飲食街、近代的オフィス街汐留、そして臨海副都心に通ずる環状2 号線と、大変なポテンシャルを有しながらその中心駅としての機能と魅力を有していない。この新橋駅が東京を代表する駅の風格を持ちうることと、地域の防災性を高めることが周辺部の価値を格段にあげるという発想なしに、当面の問題解決だけの駅改良や一部のビル建設に過ぎない再開発では宝の持ち腐れであろう。

鉄道事業者が都市のあり方を先導する時代の再来であり、その社会的使命は大きい。