将来ビジョン―歴史を振り返ることから

ひと

NPO 法人シビルNPO 連携プラットフォーム 代表理事

山本 卓朗

長年にわたり国土計画や社会基盤の将来ビジョン作成に関わってきた有志の集まりで、かつての全国総合開発計画のような“国の将来ビジョン”が無いのは我が国くらいではないか、という話題に集中しました。社会資本整備や公共事業は“もういらない”という議論が、対照的にその強化を進めている米国やEC そして台頭するアジアの諸国との経済競争を如何に阻害しているか痛感します。ではなぜこういう事態になっているか。政権交代などにその因を求める声もありますが、高度成長からバブル崩壊を経験した日本人の多くが物質的な豊かさよりも精神的な豊かさを求めるようになっていることを合わせて考える必要があると感じます。曽野綾子さんは土木について造詣が深く、インフラ整備についても多くの理解を頂いていますが、氏の著作「人生の後半を一人で生きる言葉」の中で、「物質的に社会が豊かになったほどには、心が豊かにならなかった。それどころか、人間の誇りも家族の絆も失われて来たように見えるので、もしかすると物質的には慎ましい戦前と、貧しい戦後を知っていたということは、最も心豊かな時代を体験したことになるのだろうか、と思う時があるのである」と述べておられるのがとても印象的です。200 年に及ぶ鎖国から目覚めた明治の初め頃の“維新で人情も希薄になり殺伐とした世の中になってしまった”と江戸時代を懐かしむ文を読んだことがあります。頻発する大災害や火事のなかで“木と紙の文化”を捨てざるを得なかった日本人には、“コンクリートから人へ”というキャッチフレーズに飛びつくDNA があるのかも。

とはいうものの国際社会は実に冷徹です。経済にせよ領土にせよ、力の均衡が崩れるとその国が危機にさらされることを世界の歴史が教えてくれています。これからも国際競争に不可欠なインフラ整備の重要性については粘り強く訴えていきたいと思います。

一昨年土木学会が100 周年を迎えた時、過去の100 年の歴史を検証し、それを土台にして次なる100年ビジョンをまとめました。鉄道の歴史はさらに長く、間もなく150 年を迎えます。将来ビジョンは漫然と考えていても知恵は浮かびません。過去の歴史や文化そして人の心の変遷まで自由に議論していくと何となく姿が見えてくると考えます。そして未来構想PF では、将来ビジョンを構想する手法などをワークショップ形式で研修してきましたが、東京オリンピック以降を見据えて、鉄道交通の将来についてさらに議論を深め、具体的な構想つくりに努力したいと思います。