首都高速道路株式会社取締役常務執行役員
未来構想PF 理事
只腰 憲久
筆者の現在の勤務先は首都の幹線道路を管理する会社である。これまで私は主に計画畑を歩き、なかでも公共交通関係の仕事が多かった。平成元年までの2 年余は都からJR 東日本東京工事事務所に出向し、鉄道の現場も経験させて頂いた。
ここにきて、高速道路の更新計画を担当することになったが、鉄道と道路のいろいろな面での違いには驚くばかりである。鉄道と道路は、陸上交通の二大モードでありながら、そのありようは全く異なるのである。
まず、鉄道はプロの世界である。プロが整備した車両が精緻に組まれたダイヤをもとに正確に走る。これに対し、道路の上はいわばアマチュアの許容された世界、自転車から大型トレーラーまでが、まったくランダムに走行する。速度規制や徐行標識なども事実上「お願い」に過ぎず、需要側へのコントロールが効かないことが多い。なかには酔っ払い運転や積載オ―バーのダンプなどアウトローもいる。最悪の場合制止を振り切って突っ込まれる危険も覚悟せねばならず、現場ではフェイルセーフが不可欠である。
二番目は、道路は24 時間開放が大原則であり、鉄道で言う「線路閉鎖間合い」などがない。幹線道路では、深夜に亘るまでほとんど連続的に車が走り、鉄道のように、見張り員の監視のもと列車の間合いに少しずつ工事をする、という芸当ができない。道路交通を所管する警察当局の理解を得て、少なくとも1 車線をある区間通行止めにしないと何もできないのが現実である。
三番目は、道路には軌道、バラストがないことである。バラストを調整して、盤上げをするといった小技が利かない。道路の橋梁では、路面の舗装のすぐ下に床板があり、構造物の上面の空間線形がほぼそのまま走行空間の線形になる。その桁は、多く道路、河川の上空にあり、架設、改修には困難が伴う。
こうした厳しい諸条件のもとで、老朽化した首都高の構造物を更新するというのは、きわめて困難な仕事となろう。首都高の路線は交通量が多く、日交通量数万台から10 万台に及ぶ。もしこれを交通止めにして一般道路に迂回させたら、高速道路、一般道路とも大渋滞が生じ、大変なブーイングが起きるであろう。従ってまず、広域的な交通処理対策が不可欠であり、その面からも迂回路としての環状道路の有効性は高い。リダンダンシーのある路線網が求められる所以である。
今でも行われている夜間の1 車線規制など部分的な交通止めは小規模な工事には有効であるが、桁や床版などの構造物本体を取り換える場合は一晩では元に戻せない。渋滞の必須な長期の車線規制や中期的な交通止めを多様な利用者の方に許して頂けるか、姿勢を正して説明責任を果たさねばならない。
一方で、なるべく早く交通解放ができる急速施工などの技術開発も重要である。急激に進む老朽化に対しては保守・検査技術の高度化などの要請も強い。
戦後大規模に整備された公共施設の老朽化は、日本全体の大きな課題である。この仕事は、ある意味で新設よりも面倒である。明治期以来の鉄道路線を保守管理し、取り換え工事などを「活線施工」して腕を磨いてきた鉄道技術者の皆さんに対して、道路などのインフラの老朽化に対して、基本的なありようの違いを超えて多面的な支援を期待するものである。