クラウド時代の土木技術者への期待

ひと

ジェイアール東日本コンサルタンツ(株)
代表取締役社長

山﨑 隆司

私の勤めているJR東日本コンサルタンツはこの4 月に創立25 周年を迎えた。もともと鉄道構造物の土木設計コンサルタントからスタートした。その後施工監理、構造物の調査・点検、測量地質調査、環境測定など幅広い分野に広がり業績が伸びてきたが、特に最近高い業績を収めているのがICT 分野である。

このICT 分野に進出して11 年になる。この3 月には「JR東日本アプリ」を完成させ1ヶ月で45万ダウンロードを得た。この手のアプリとしては驚異的なものとなった。この東日本アプリは列車運行情報がリアルタイムで得られる。列車運行管理システムATOS から情報を受け、サーバを通じて利用者に配信されている。山手線の列車位置も車両毎の混雑情報も入手できる。東北地域の列車運行情報も得られる。バリアフリーを入れた駅構内情報も全駅入手できる。店舗情報も順次拡大される。JR東日本の各担当部署が提供する情報をまとめ、一つの情報基盤に乗せ図面化してサーバから配信する。システム中心の技術ではあるが地図や図面情報が基盤になっている。関係者と関係部署が多くその調整が大変である。関係者が多く複雑であれば、ますます調整役の役割が重くなる。クラウドによるサービス提供は関係者調整が多くそれに近い。利害関係者の調整は土木技術者の得意分野という話があるが、このシステム構築で中心となって活躍しているのは、何と土木技術者である。地図や図面情報が基盤ではあるが、土木技術者が多くの関係者をまとめシステムを構築し稼働させ、多くの利用者支持を得た。

当社がICT 事業に進出したのは鉄道線路平面図をデジタル化して、保管とアクセスを容易にした鉄道GIS からである。今までのシステム化には様々な取り組みがあったが、ユーザが自分で使うための自己使用システム構築の域を出なかった。利害関係者の調整というより、ユーザのニーズ調整が主で、この分野は基本的にシステム技術者の仕事だ。

インターネットを中心としたクラウド技術が進み、ユーザである一般鉄道利用者に直接地図情報を伝えるスマホやタブレットの時代になった。多くの関係者が様々な情報を提供しそれを集約して束ね新システムを構築するためには、各技術分野を総合的に調整するコンダクターが必要とされるようになってきた。これはある意味では技術を束ねる作業に近く、鉄道でいえば土木、建築、電気、運転、営業、経営企画、財務など様々な分野の意見を聞いて調整し、プロジェクトをまとめ上げる仕事に似ている。技術だけでなく、経営幹部、国地方の行政関係、地元関係者なども含めると利害関係者の調整は膨大で、今まで土木技術者が黙々とやっていた仕事である。束ねる仕事は土木技術者に向いている。

土木学会初代会長の古市公威氏は、土木技術者の役割としてゼネラリストとして技術を束ねる役割の必要性を述べたが、クラウドの時代になりその役割が再び脚光を浴びそうだ。クラウド時代はシステム構築で図面を基盤として使い、多くの関係者を調整することが必要である。この分野は土木技術者のまとめる力が発揮できるし、期待されるのではないか。頑張れ!土木技術者諸君。活躍の場は広い。