「ポリセントリック・ガバナンス」が拓く未来

まち

㈱日建設計
代表取締役社長
大松敦

民主主義の劣化、貧困や格差の拡大、気候変動の加速など多くの課題に面する社会において、最近「ポリセントリック・ガバナンス」の効用が認められてきています。直訳すれば「多元的な統治」、社会共通資本(コモンズ)を安易に公有化することなく、もちろん私有化することでもなく、その中間的なマネジメントを行おうということです。この概念は道路や公園などの身近なコモンズから国際協力システムのようなものにまで広く適用されていますが、実はバブル経済崩壊後の日本の大都市において、駅を中心とした都市開発(TOD)が都市再生を推進してきた、そのエンジンとも言える概念でもあります。
1990年までの高度成長期~バブル経済期には、東京でも個々のプロジェクトの開発スピードが重視され、周辺市街地との連携や調和は不十分なまま進められていました。公共交通への配慮や駅との接続についても同様でした。その多くはバブル経済崩壊後の1990年代に中断しました。その後、2000年前後から立地に優れたTODプロジェクトが始動してきましたが、駅前という立地特性上、様々なコモンズ空間の整備や維持管理をどのようにマネジメントしていくかということが大きな課題でした。土地価格神話が忘れ去られ、慎重なプロジェクト推進が求められる状況下において、複数事業者が相互依存することなく、自立的に協調する手法が生まれ育ってきました。これにより独立した各事業者が負担と利益を公平に分配できるようになりました。結果的にはこれがTODにおける「ポリセントリック・ガバナンス」の黎明でした。東京駅や渋谷駅周辺の開発が着実に発展できたことは、その功績によるところが大きかったと思います。
その後の各地の都市再生においてこれらの手法が多くの花を咲かせました。複数の民間事業者が協調的にコモンズ空間を整備し、多元的に運営管理することで都市の再生が進められてきています。この流れがTODに留まらず、そのほかの社会課題解決に向けたムーヴメントを先導していくことで、「ポリセントリック・ガバナンス」が望ましい未来に向けた道を拓くのではないかと期待しています。