JR東日本コンサルタンツ㈱
取締役会長
栗田 敏寿
日本のGDPがドイツに抜かれ世界4位に転落した(2025年にはインドに追い抜かれ5位へ転落予想)。人口比はドイツ/日本=2/3なので、単純に言えば生産性を5割増しにしてドイツ並みという事になる。こうした中、北陸新幹線は敦賀まで延伸し、今後、沿線地域の活性化と観光産業の更なる発展など、地域経済ひいては外国人観光客の増大など日本経済の発展に少しでも寄与して欲しいと期待している。
そこで、国際的にみて、「GDP」と「高速鉄道整備以下:路線延長)」の推移と現状がどのようになっているのか、調べてみた。(出典GDP:IMFデータポータル、高速鉄道延長:HIGH SPEED LINE WORLD 2022)
まず、日本は、「GDP」と「路線延長」が同じような傾向で伸びてきて(相関関係があるようにみえるが検証はしていない)、2023年の路線延長は3,148km(敦賀開業によって年度末3,273km)となっている。これは世界第3位の規模であるが、因みに国鉄末期の1985年は世界第1位だった。
一方、中国はこの20年間で凄まじい勢いで整備してきており17,701km(世界第1位、対日5.6倍)となっている。欧州を見ると、フランスが3,049km(世界第4位)とほぼ日本と同規模だが、GDPの成長以上に高速鉄道の整備を進めている点が日本とは異なる。
この傾向が特に強いのがスペインである。その路線延長は3,992km(世界第2位、対日1.3倍)と日本をやや上回る程度だが、やはりこの20年間で急速に伸ばしてきており今後も急ピッチで整備が進められる計画だ。「スペイン政府は、高速鉄道整備は経済成長の起爆剤、雇用創出の一環という方針を示している」と紹介した調査レポート*も見受けられるが、飛行機に比べエネルギー及び環境性能に優れているという国民意識も背景にあると思われる
。高速鉄道と地域鉄道が有機的にネットワークされ、各地の世界遺産や観光資源を直結することが、外国人旅行客数世界第2位の観光立国としての地位を有する大きな要因の一つになっているのではなかろうか?(*出展「運輸と経済第73巻第12号’13.12海外トピックス-スペイン高速鉄道の現状と課題-」)
日本の高速鉄道(新幹線)整備の速度はこうした国々と比べても遅く、約50年前に策定した新幹線整備計画に基づき進められているが、この計画自体が高度成長時代の最中に策定されたもので、日本の総人口は拡大し国内需要が多く見込める時代に策定したものだった。しかしながら、今や、時代環境は大きく変わり、世界に先駆けて総人口減少時代へ突入した日本は、今後20年で約2千万人の人口が減少する時代を迎える。
だからこそ、高速鉄道の整備にあたっては、国内需要だけではなく、インバウンド、外国人ビジネスマンの需要をシッカリと取り込む施策と連携して進める必要があるのではないだろうか。世界との交流人口や関係人口を増やす施策をダイナミックかつスピーディに進め、これと連携した高速鉄道整備(新幹線整備や主要な幹線鉄道の高規格化)は必要不可欠な施策だと感じている。
また、新幹線は、阪神淡路大震災以降進められてきた耐震補強工事によって耐震性能が大幅に向上し、比較的大地震に強い交通モードになっている点も強みである。高速道路と補完しあいながら遠隔地からの支援や復興等に新幹線が果たす役割は大きい。
現在、急激な人口減少と頻発する災害を背景に、サステナブルな街づくりを前提とした地域交通の再構築の議論が始まったが、今後の高速鉄道の整備にあたっては、観光施策と地域交通(ex富山ライトレール)と連携して進めていくことが、今後の日本の社会・経済の再生に大きく寄与するものと考えている。