未来を考える

ワークショップ

メトロ開発㈱
代表取締役社長
野焼 計史

未来を考えることは面白い。今から33年前の1991年、営団地下鉄当時創立50周年記念論文の募集があった。テーマは「21世紀に向けて営団は今後どうあるべきか」、入団7年目の私は25年先、2016年の日本社会、東京や営団地下鉄の将来がどうなっているかを具体的に予測して、そのために何をするべきか、何を変えるべきかを考えた。考えた25年先は今から8年前、自分の考えた未来を自分の目で確かめることが出来た。自分が考えた通りになったこともあったが、考えたほど進まなかったこと、さらには考えもしなかったことが遥かに多い。都市や鉄道に関して言うならば、「東京都心3区への業務機能の集中」「鉄道現業における女性の活躍」は考えた以上に進んだ。「容積率の割増しによる再開発事業者負担の駅改良、新設」は願望を込めて具体的に予測したが、まさかそのスキームが実現し、虎ノ門ヒルズ駅の建設に携わることになるとは。構想から計画、設計、工事、そしてオリンピック・パラリンピックまでの暫定開業、全体完成まで自ら関わることができたのは感無量だ。進まなかったことは、「第2臨海副都心の開発」、「外国人の運転士」、「週休3日制」、現在整備を始めた有楽町線延伸などはとっくの昔に完成していた。考えもしなかったのは、訪日外国人の急増、バリアフリー設備・ホームドア整備の進展、ICシステムの普及・発展、パンデミックによる輸送人員の大幅な減少もそうだ。最も先が見えていなかったことは2004年に東京メトロが発足、25年先の営団地下鉄がなかったことかもしれないが。
未来を考えることは難しい。これから25年後の都市や鉄道はどうなるか。コロナ禍で働き方が変わり、東京メトロの輸送人員も依然としてコロナ前に戻らないが、長期的にみて新しい働き方は本当に定着するのだろうか。デジタル技術の進歩は都市の発展や鉄道の乗車システムにどんな影響を与えるのだろうか。外国人の運転士はいつ実現するだろうか。
いや、そもそも運転士という仕事はいつまであるだろうか。でも自己責任の意識が希薄な我が国で鉄道の自動運転はどこまで進むのだろうか。お客様は受け入れてくれるだろうか。
東京メトロ総合職の新入社員にはいつも伝えてきた。未来のこと、25年位先の社会をイメージしながら仕事をして欲しい、社会全体を俯瞰した広い視点で業務に当たって欲しいと。さて、彼らが見届ける未来、作り出す25年先はどうなっているか。
ちなみに冒頭の論文は最優秀賞を受賞、ご褒美は欧州2週間の地下鉄視察、壁が崩壊した直後のブランデンブルク門や東ベルリンの街並みが何とも懐かしい。