移民問題を都市問題として捉える

ひと

㈱日建設計
取締役常務執行役員
奥森 清喜

「タイムマシン」、3年余に渡るコロナ禍をこのように表現されることがある。10年から20年先に確実に訪れる事象が前倒しで目の前で実現される、このようなコロナ禍に起こった現象を指しているが、移民問題もその事象の一つであるといえる。これまで、日本の1次、2次産業は外国人材を低廉な賃金で受け入れることが可能な技能実習制度によって支えられてきたが、コロナ禍により継続的な研修生の受け入れが不可能となり、これに大幅な円安の進行もさらに追い打ちをかけ、日本が海外人材の働く場として魅力のない場所となっている。コロナによって、一気に、海外人材の獲得がこれまでのやり方では持続可能性がないことが露見した形になっている。
昨年、移民問題の専門家である㈶日本国際交流センターの毛受先生とJICAの宍戸先生を講師に迎え、ワークショップを行う機会をもった。生産年齢人口が不足し、移民問題が本格化する2040年代の都市のあり方についてシナリオプランニングを用いて、その将来像を描くことにチャレンジした。シナリオプランニングは、4つの異なる将来像を生み出す。「移民受け入れが進むとともに融合が進み多様性あふれる将来」、「移民受け入れは進むが融合は進まずリトル○○が数多く発生する将来」、「移民受け入れはあまり進まないが、現在よりも融合が進む将来」、「ほぼ現状維持」。どのよう社会となるかは予測できない。予測できないからこそ、都市・インフラの専門家として、複数のシナリオを常に持ちながら、都市・インフラという整備に時間を要する事象に対して取り組んでいくことが重要である。どのシナリオにおいても一定の外国人の流入が前提となるため、「外国人を受け入れるための基盤整備」に取り組む必要がある。特に、防災レジリエンスの向上や交通利便性の改善において、外国人を置き去りにしない対策を行うことが重要となる。
移民問題はこれまで経済、社会問題として捉えられることが多かったが、それらの受け皿となる都市問題として捉えることが日本の未来に重要な意味を持つ。