日本コンサルタンツ(株)
取締役インド高速鉄道推進本部副本部長
美谷 邦章
いまデリーを訪れるとG20の看板があちこちに目につく。今年のG20議長国を務めるインドは首脳会議を9月に予定しているが、閣僚級の会議は既に2月から開始している。歓迎のため道路沿いの装飾も華やかであるが、デリー国際空港の拡張工事など街は建設工事も盛んで、その土埃りも相変わらずである。
インドの2022年の実質GDP伸び率は6.7%となり中国を上回った。名目GDPは2027年には日印が逆転するとの見通しもある。また人口は2022年末時点で14億1700万人と推計され、既に中国の人口を抜いて世界一のようだ(*1)。またインドは日米豪印のクアッドの一員でもあり、政治や経済の連携強化に欠かせない存在である。
世界でも存在感を発揮するインド国であるが、そのインドの地で”新幹線”プロジェクトが進んでいる。
政府等関係者の長年の協議やFS調査等を経てムンバイ・アーメダバード間高速鉄道が日本の高速鉄道の技術新幹線システムおよび経験を利用して整備されることが決定、2016年12月に設計、入札図書作成、入札支援を行う詳細設計調査がJICAから発注され、日本コンサルタンツによるコンソーシアム(*2)(以下、「JICC」)が受注し実務スタートとなった。私はその詳細設計調査を実施する調査団の副総括として業務開始から従事し、現在は総括の立場となっている。南北に路線延長約500km、12駅のプロジェクトにおいて、高速鉄道ならびに研修施設を含む工事契約全25パッケージ(*3)があるが、完成あるいは工事中14、入札手続き中6、入札公示に向け準備或いは協議中5となった。現地では、特に路線北側のグジャラート州において工事が進み、立ち上がりつつある高架橋が大地に続く姿は壮観である。
当プロジェクトは、インド政府からの要請など民間企業だけで解決できない課題が多々発生するが、国交省はじめ関係官庁、大使館、JICA、JRTT、政府間協議支援を行うJR東日本が一体となって課題を解決しながら進めている、いわゆる”オールジャパン”のプロジェクトである。インド側要請による計画や設計の変更、度重なる詳細な説明要請への対応、またコロナ禍でのインド国全土ロックダウンに伴う日本人全員帰国などもあり、作業開始から時間を要したが、関係者や調査団各専門家の努力でここまで来ることができた。入札支援までの詳細設計調査業務に見通しがつきつつあるなか、施工段階に入り、軌道・車両基地などの施工監理をJICCが昨年受注し現地での業務が始まった。なお電気、車両など日本企業が参画するパッケージについては議論が続いており、その作業着手までまだまだ気が抜けない。
経済成長著しい”インドの時代”が今後来るとも言われ、その一端に関わっているという想いはありつつも、拘りを持った議論を繰り返すインド側カウンターパートに辟易するところも多々あり、いわゆる”インドリスク”を体感しているところである。これまで身をもって経験したこと、あるいは今後経験することが、私のみならず従事された方々の、いずれ日本国の、将来に活かされることになると信じ、日々取り組んでいる。
(*1)WPR(ワールドポピュレーションレビュー)による
(*2)日本コンサルタンツ、日本工営、オリエンタルコンサルタンツグローバルのコンソーシアム
(*3)設計のみのパッケージ除く。電気はJE(日本高速鉄道電気エンジニアリング㈱)が発注者(インド高速鉄道公社)を代行する別のスキームだが、そのパッケージを含む。JICCは設計、入札図書作成を実施。
インド高速鉄道現地施工状況(右写真の左端が筆者)