[100号特別企画]有識者が描く未来とは?

ひと
「未来を考える」キーワード

 

未来構想PF前会長

山本卓朗

最近ある研究会で、将来と未来をどう考えますかという議論になったことがあります。咄嗟に未来は将来のずっと先ですね、と言ったけれど、未来構想PFに居ながら、本当に未来を指向していたかというとはなはだ疑問で、せいぜい自分の命がある間くらいしか構想してなかったなと内心忸怩たる思いです。今回PF通信100号記念で『未来』を取り上げて頂けるとのことまことにありがたいことです。
未来を考えると言っても、荒唐無稽なSFの世界ではないから、キーワードの最初は、歴史を踏まえて考えることですね。未来を語るには、歴史を知らなければ話にならない。冗談半分だけれど、私は50歳で人生を折り返しました。で、ついに19歳に。ますます若返って新鮮な発想をしたいと思うけれど、私の誰にも負けない売りは50年の歴史を知っていること。その良かったこと悪かったことを全部活かして未来を議論したいです。数年前に土木学会が100周年を迎えました。そのときこれからの100年ビジョンをつくることに。そのために100年間の歴史を総ざらいしました。過去の良かったこと悪かったことを考えると未来が見えてくるのではと思います。高齢化社会です、年寄りの重要な出番でもあります。
二つ目のキーワードは、“飛躍”です。
未来レベルで考えようとするとき、まず必須なことは、現在の考え方に捉われないこと、全てに疑問をぶつけてブレークスルーをめざすことでしょうか。人口減少は確かに大きな課題だけれど、狭い国土に1億人いなければいけない理由はないし、減少するメリットもあると考えるべきです。コロナで地方分散があらためて叫ばれているが、東京一極集中のメリットについても議論しないと地方の活性化だけでことが進むとは思えません。飛躍と共に超という言葉も大事ですね。情報化、国際化、脱炭素化についても、超情報化、超国際化、超環境と言った時に何を想像しますか。超のレベルになった時、当然行き過ぎのデメリットも顕在化してくるでしょう。デジタル化の急伸で、電力需要が数十倍に膨れ上がるとの想定があり、再生エネルギーの課題も浮き彫りになって、既にEUで次世代の原子力発電を目指す動きが出ています。とにかく頭を柔らかくして、考えを飛躍させないと未来は拓けないのではと思います。
最後の課題は、基本として豊かな未来社会とは何か考えることです。効率化は大事ですが、経済競争と関係ないところでは、日本の風土に合ったアナログ的な文化や制度を残すことを考えたいですね。日本に来た外国人が日本人の現金主義にびっくりするとか。私もSuicaと現金を併用してとても便利な生活をおくっています。

 

 

国土構造の改変と地域交通 システム

 

政策研究大学院大学 客員教授 名誉教授
森地 茂

人口減少に伴い、わが国経済は縮小し、国民も経済的に貧しくなるかの議論が横行しているが、それは間違いであり、人口も生産年齢人口も減少率は年05程度なので、生産性向上が1あれば、貧しくはならないのである。高齢者の消費減少分を差し引いても、経済成長は可能なのである。そのためには、デフレが止まることと、地方の活性化が要件であり、それができると国民が信じることに日本の未来はある。
1.将来の姿としての2層の広域圏
地域活性化の鍵はアジアの繫栄を如何に地域に取り込むかにあり、アジア向けのサービスや商品開発、インバウンド観光、アジアからの投資、アジアからの留学生とその定住などである。かつての一村一品運動の国際版である。
全国的には豊かさが維持できても、過疎集落では人口減少以上の生産額をあげるのは困難である。したがってどのような広域圏なら経済成長できるかが問われるが、欧州の多くの国と同等の人口を有する北海道、東北、九州など広域地方圏なら国際空港や港湾、拠点的大学などもあることがヒントになる。まさに道州制の広がりである。
一方、小さな自治体では、医療、商業、教育など生活サービスを維持できず、多くの人はそれらが集約された地方都市に住み、農業従事者をはじめ過疎地で働く人々も通勤するようにならざるを得ない。北欧諸国やカナダの地方部のような住まい方である。この生活拠点都市として、県庁所在都市や、地方の中心的都市すなわち、人口2030万都市とそこから1時間程度の圏域単位でなら生活サービスの維持が可能なことがヒントになる。人口規模や圏域の広さについては議論の余地があるが、定住自立圏構想が将来の姿であろう。
2.地域交通システム
しかし、高齢者の多い地方の現状からこのような将来の住まい方に移行するのは容易ではない。この移行期の人々を支えるのが、自動運転による公共交通と移動販売車、遠隔医療などの技術である。
地域交通システムは人口減少で存続の危機にあり、政策転換が迫られている。人件費が60、管理費が25を占めるバスサービスで、車両も公的負担とし、自動運転で運行頻度を上げ、利用者が増えれば、現在の1020程度の運賃でも運行可能となる。欧米の大幅な補助金による地方交通に比べ効率的に適正なサービスを維持するためには、年間乗車券に対する利用者負担と自治体の負担を前提とする国の補助制度が望ましい。JR東は三陸地域のBRTのサービス維持に加えて、それ以外のバス路線の自動運転化も技術的に支援して、鉄道駅へのフィーダー交通のサービスレベルをアップし、その結果、運行頻度の少ない鉄道よりも便利なバスへの理解を深めたい。同時に生活拠点都市の駅周辺への各種機能の強化を図り、結果的に需要の少ない鉄道線区のBRT化が進んでいることを目指したい。

 

2040年の駅空間の創造へ

鉄建建設㈱代表取締役社長
伊藤泰司

未来構想PF通信100号の発行おめでとうございます。また、記念号へ「未来について」の寄稿依頼をいただきましたが、拙文となりましたことご容赦下さい。
今年は鉄道開通150年の記念の年です。今までの鉄道の歩みを振り返りますと大局的にはひっ迫する輸送量をさばくことが中心でしたが、昨今は感染症対策や人口減少にどう対応しながらサービスを提供し、経営を維持するかに焦点が当てられています。
もちろん駅においては、様々なサービス提供、バリアフリー等駅利用者への機能向上に努力がなされてきましたが、経営を支える輸送量自体が急減する逆風をどう乗り越えるかが、将来を展望する上で課題となっており、サービスダウンとなる運転本数の減、駅の無人化、サービスのロボット対応などが話題になることが増えてきました。
一方、道路交通に目を移すと、国土交通省からポストコロナを念頭においた2040年ビジョン「道路の景色が変わる」が提言され、その中で「人々の幸せにつながる道路」を政策の原点に置いています。また、令和4年度の道路局方針に「ユニバーサルデザイン化の推進」があげられ、全国の主要な鉄道駅舎周辺の道路における高齢者、障害者等を対象とするユニバーサルデザイン化の推進、自転車通勤の導入促進等があげられています。
鉄道各社もシームレスなネットワークの構築、駅の地域拠点化等を目標として施策を進めていますが、これからは、鉄道と道路のインターフェースをどう強化・拡充するかが今まで以上に問われることになります。鉄道の多くは民営で、道路は官なので今まで各々のテリトリーを意識しながら努力がなされてきましたが、今後は「人々の幸せにつながる交通」を「まち」の中でどう実現するかについては官民の垣根を越えて協調を深め、日本を生活しやすい国にしていかなければなりません。
高齢者の足の確保、自転車と鉄道の連携施策などは、まだまだ十分な対応がとれているとは思われません。今後、道路空間の利便性が加速してくると思われます。接点である駅のスペースがその街を体験したり、憩える場として提供されたり、交流を活性化させる仕掛けづくり、高齢者のシームレス移動をどうつくるか等、将来の鉄道の魅力を高めるためにも「2040年の駅空間の創造」に官民あげて取り組まれることを大いに期待したい。