斉藤 親
未来構想PF副会長
耳にタコでしょうが、コロナにまつわる話をご容赦願いたい。
この原稿依頼を頂きすぐ思い出したのは、昨年の本誌2月号における「東京都市圏PT調査から見えること」と題しての投稿―直前の国交省からの公表結果に基づき、総トリップ(人流)数が突然30 年前の水準まで減少したことなどを紹介させて頂いたものである(記憶を呼び戻して頂くため、象徴的な図を2 枚再掲した)。
丁度その頃、中国武漢発の新型コロナ感染騒動が表面化していたが、現在に至る世の中の大混乱振りは、まだ誰も想像だにしていなかったと思う。
昨年4 月の最初の緊急事態宣言から1 年以上が経過した現在、ワクチンを始め感染対策に一定の成果を見せるも、その落ち着きどころ(所謂ニューノーマル)は今なお不透明と言えよう。「近々インフルエンザ並みに」という楽観論?から「変異株との戦いが数年続く」といった悲観論?まで、様々な予想、憶測が飛び交う中で、ここに来て政府機関やシンクタンクなどからは、ニューノーマルの展望も語られ始めている。一方で、首相・知事、有識者などからは毎日のように「人流(抑制)」という言葉を聞かされてきたが、ここで私は、コロナ感染の影響を重ねながら、改めて人流減少が見られた前年投稿のパーソントリップについて、あれこれ思いを馳せた。
ご存じの通りPT調査の起源は米国シカゴで、わが国では半世紀以上前の昭和42年に広島から始まったもの。それまでの目の前を移動する車や人の流動量を計測することから、個々人の動く目的や発着地との関係を捉え流動の中身を掘り下げることによって、現状把握や将来予測のレベル、説得力を飛躍的に高めたとともに、交通と土地利用を結びつけることをも可能としたものである、、、と教科書めいた話をしたが、コロナ禍での人流を眺めながら、このPT調査に少々厄介なことが起こっているのかと思い始めた訳である。例えば、テレワーク。PT調査では「リアル」な外出はなくトリップ無しとなるが、実は「デジタル」では出勤と解すことも出来よう。たまたまの調査記入日と出勤在宅の関係も気になる。週3 日のテレワークは2/5/日トリップと記入してもらう? 通勤トリップだけでなく、買物や食事もトリップ無しの宅配(物流への移行?)が急展開し、既にトレンドとなっていた業務トリップのリモート化(=トリップ無し)は当然ながら急加速している。ワーケーションという出勤+私事の重複目的トリップともいえる新しいタイプの移動も生まれている。
前回のPT調査を振り返れば、初の総トリップ数減少という際立った変化点を生んだ原因は、前回のPT調査をスマホの普及を始めとしたIT化、デジタル化の進展に拠るところ大との見方が大勢である。その意味では、コロナ感染は、「人のトリップ生む目的行動のリアルからデジタルへの移行」をより加速させると共に、その局面を多様化させているとも見られる。脱線するが、まだまだ先の話と思い気にも留めなかった内閣府のソサイアティ5.0。その中にバーチャルとフィジカルの雲が折り重なった都市空間が描かれた絵があったが、少しばかり現実味を感じてしまう。
10年毎に行われてきたPT調査、次回は7年後に行われる。くどいようだが、PT調査は、半世紀以上前、交通計画・都市計画の向上に向け、直接の移動現象の観測から人の移動目的に着眼を転換して大きくステップアップした。今、改めて、人の行動をリアル(R)とデジタル(D)を包含したものと捉え、その相互の互換性や選好性などに踏み込んだ「新(R&D)PT調査」が、次回あたりから(たとえその第一歩でも)必要になってくるのではないか。もとよりデジタル技術、サービスの更なる進化は確実視され、ビッグデータの利活用も視野に、コロナ問題は、新たなPT調査への転換を強く迫っているように思える。
(東日本旅客鉄道株式会社 顧問)