人口減少は危機ではなくチャンス

ひと

土井 博己
未来構想PF前事務局長

「人口減少は危機ではなくチャンスとも言える」。未来構想PFがこの10年間に実施してきた18回のWS研修で何度か聞いた、前会長山本卓朗さんのコメントだ。将来構想がテーマの研修なので、情報として人口予測グラフを引用しながら提案をまとめる研修生が多く、ほとんどが「人口減少は危機」の考えでの提案説明となる。
日本の人口はこれまで4つの波で大きく増えてきた。1回目は縄文時代前半、2回目は水稲耕作が普及した弥生時代、3回目は市場経済が発達した室町時代から江戸時代にかけて、最後の波は19~20世紀の工業化で、それぞれ文明システムが大きく転換している。そして現時点の予測では、日本の人口は約30年後に1億人を割り、2065年には今より4千万人近く減る8,800万人台になる。この数字から、誰しも国家の未来に不安を抱くのは当然といえる。

人口の超長期推移

70年代初頭に発表されたローマクラブ報告書は、人口爆発、資源枯渇、環境汚染などで人類は重大危機を迎えていると警鐘を鳴らした。1974年、第2次ベビーブームの最中に開催された「日本人口会議」では、人口爆発による資源の枯渇を危惧して「子どもは2人まで」とする大会宣言が採択され、2010年までに人口増を止め、安定した「静止人口」を目指すこととした。2014年、民間研究機関「日本創生会議」は、人口流出が進み存続できなくなるであろう自治体を「消滅可能性都市」と名指しして、地域拠点都市に投資と施策を集中することを提言した。
政府の人口対策の目的は国力増強であり経済成長の底上げだ。高い成長率は財政悪化や年金財源などの難題を解決してくれるし、経済大国であり続ければ国際的な影響力も維持しやすい。政権や経済界がそんな動機から人口大国を望むのは自然なことかもしれない。
日本と国土面積が近くて経済的に豊かな国の人口は、ドイツが約8千万人、イギリス・フランスが7千万人弱。通常、資源が限られた狭い国で1億人を超えると貧しくなるはずだが、1億人を超えて繁栄している日本は、高度経済成長による、あくまで特殊な例とも言える。
人口増や経済成長そのものが目的ではなく、一人ひとりが幸せで美しい人生を生きることが目標であり、大規模・集中・グローバルという近代文明の設計原理を見直すことが重要となってきた。具体的な提案に「地域でお金や資源を回す小さな循環型社会」「交流・交友人口の増大」「適当に疎がある適疎のまちづくり」等がある。
国立社会保障・人口問題研究所の林玲子副所長は「将来人口が8千万人だろうと3千万人だろうと国家は維持できる。江戸時代の人口は約3千万人だった。いまなら長寿化による現役人口の増加という解決策もある。人口規模に合わせた社会制度を作ればいいだけのことだ」と楽観的だ。まったく同感であり、まさに人口減少は危機ではなく社会変革のチャンスだといえる。