付加価値の高い鉄道を目指して

みんなの未来構想

小山 宏
JR東日本 建設工事部長

 新型コロナウイルス感染症のニュースが中国などで大きく報道されてから1年あまりが過ぎ、世の中に様々な変化をもたらしていますが、この間の鉄道輸送も甚大な影響を受けました。人の動きの変化ということでは、コロナ前の平成30年に実施された東京圏パーソントリップ調査で、総トリップ数が10年前に比べ13%減少し、外出率や1人当たりのトリップ数などが調査開始以来最低となるなど、その兆候はありましたが、通勤トリップだけは女性の社会進出などもあり、増加傾向は変わっていませんでした。しかし、ウイズコロナの現状では、首都圏の鉄道の朝通勤ピークの混雑率は大きく減少し、アフターコロナにおいても、この間のテレワークやEコマースなど社会環境の急速な進展に伴い、もとの状態に戻ることは無いと考えられています。
都市鉄道において、「混雑緩和」は長年の課題であり、その解決のため、新線建設や複々線化などの線増、列車の長編成化、湘南新宿ラインや上野・東京ラインなどの路線の直通運転・延伸化、信号設備の改修などの施策を行うことにより、首都圏JR主要線区の朝ピークの混雑率はJR発足時の236%から2018年には165%まで低下させてきました。また、駅についても、直通運転化による乗換減やホーム・階段の増設・拡幅やコンコース拡張なども実施してきました。それでも、特定の路線や駅などの混雑は解消されず、その抜本的な対策に頭を悩ませていました。ところが、今回のコロナの影響により、強制的に人の動きに制限がかけられ、混雑やそれに伴う列車遅延など、従来の課題解決を期せずして体験することができました。今後においては、安全・安心という意味でも、より高いレベルのサービスが求められ、ピークカットのための時間帯別運賃などの検討とともに、着席サービスの充実など、様々なサービスのニーズも高まると思われます。
一方、DXの進展などの技術革新によるチケットレス、改札レスあるいは自動運転の導入により、駅の業務施設やバックヤードなどはスリム化され、人の流れの変化と合わせて、駅空間のあり方なども大きく変化することが考えられます。駅は、鉄道を利用される方はもちろん、まちづくりと一体となり、様々な機能を併せ持つ「駅まち空間」として、期待されています。また、高齢化とともにモバイル化の進展によるMaasの普及など、従来にも増してシームレスな移動が求められ、そのためのバリアフリー設備や交通結節点の工夫が重要になってきます。
将来の少子高齢化や人口減少に対して、従来から言われていたライフスタイルや人々の行動の変化が今回のコロナで一気に加速され、私たちの価値観や働き方、行動様式がますます多様化してきています。それに合わせて、今まで以上に時代に即した、安全性、快適性、利便性を考慮した「付加価値の高い」鉄道の整備が求められるのではないでしょうか。