ソーシャルビジネス と新紙幣

ひと

辻田 満
(特非)シビルサポートネットワーク代表理事

「ソーシャル・ビジネスと新紙幣」とは、唐突な表題とお感じになられる方が多いと思います。ソーシャル・ビジネス(以下 SB )が広く認知されはじめたのは、鳩山首相が 2010 年 1 月の施政方針演説で「新しい公共」を国家戦略として掲げ、 SB があたらしい公共の重要な担い手として期待されるとしたことが契機となった、と考えられています。

SB そのものを提唱したのは、バングラデシュの農村で貧困層に無担保融資をするグラミン銀行を設立し、 2006 年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌヌです。

ここで、SB が提唱されるまでの、類似概念の歴史的変遷を簡単に整理してみます。

フィランソロピーなる言葉はみなさんの記憶に残っているとことと思います。日本では 1990年代前半がフィランソロピーの隆起であり、経団連に社会貢献活動に対して経常利益の 1% の資金を拠出 する「 1% クラブ」が設立されています。世界的に「パーセントクラブ」が設立され始めたのは、 19 世紀なかば経済が発展し大富豪が出現してからとされています。フィランソロピーとは、弱者救済の寄付活動やボランティア活動の総称であり企業の社会的責任( CSRの一種、といえます。「 1% クラブ」は当時、大企業のステータスでもありました。

その後、 1960 年後半になって、アメリカ・カナダ・欧州に芸術文化を擁護、支援する「企業メセナ協議会」が設立され、日本では 1990 年「企業メセナ協議会」が設立されています。

これら「企業の社会的責任」の総称として、 CSR corporate social responsibility が米国では 1920 年代より経営学として研究されており、日本においては 1950 年代以降になって CSRに通じる概念が導入 され 始めました。

2008 年に SB の概念が生まれ、日本では「社会的問題を解決することを目的としたビジネス」というゆるやかな定義で、各企業で取り組み始められています。

そして、SB はさらに進化し、 2011 年にハーバード大学のマイケル・ポーター教授が、企業の経済的価値と社会的価値の同 時実現をめざした CSV(Creating Shared Value 共通価値の創造 を提唱しています。この概念は、それまでのフィランソロピーやメセナ等の本業外の社会貢献活動ではなく、企業活動の中心に位置づけられるものです。わが国では、 CSR 活動に代わる企業の社会貢献活動の主軸として、現在取りくみが始められています。

以上、企業の社会貢献活動について歴史的な流れを見てみましたが、日本の主だった社会貢献活動は、海外の模倣からスタートしていることがご理解いただけるかと思います。

ところが、我が国において、渋沢栄一は 100 年以上前の 1916 年に刊行した「論語と算盤」で、「出世や金儲け一辺倒になりがちな資本主義の世の中を、論語に裏打ちされた商業道徳で律する。そして、公や他者を優先することで、豊かな社会を築く。」と提唱しているのです。
これはまさに、SB ・ CSV の概念と一致する経営思想といっても過言ではないと思います。
その渋沢栄一が、2024 年、 1 万円新紙幣の顔として、福沢諭吉にかわって登場します。
SB・ CSV は、トップダウンでなければ推進力はない、といわれています。多くの経営者は、彼 の「論語と算盤」を経営思想としている、と推察しております。これから建設産業に関わる多くの企業が脱請負の新たなビジネスモデルを構築するには、 SB ・ CSV なくしてはあり得ないと考えています。


新しい公共 (New Public)
・ 行政だけが公共の役割を担うのではなく、地域の様々な主体(市民・企業等)が公共の担い手の当事者としての自覚と責任をもって活動することで「支え合いと活気がある社会」をつくるという考え方
・地域の住民や NPO が主体となり公共サービスを提供する社会、現象、または考え方

(PF 事務局)