JR 東日本コンサルタンツ
土井博己
情報銀行は、集めた個人データを「銀行」のように預かって、企業に貸し出し「運用」し、「利子」のように対価も得る。情報銀行には、三井住友銀行などのメガバンクや IT ベンチャーなど、多様な業種からの参入表明が相次いでいる。
今やネット通販は生活の一部になり、検索や購買履歴などの個人データは、広告や新たな販売に結びつく富の源泉だ。米グーグルやアマゾンなど巨大 IT 企業はネットの検索履歴などのデータを握り巨額の利益を得ているが、出遅れた日本企業は、情報銀行の仕組みで巻き返しを図る。
個人情報をめぐっては、2013 年に JR 東日本が電子マネーSuica の乗降履歴などを日立に提供していたことがわかり、利用者らから苦情が殺到した。個人情報の利用には明確な本人同意が必要になるなど、世界的に規制が強まっている。それだけに、個人の同意を得た上で商業利用を可能にする情報銀行への期待は高まる。東京大学大学院の橋田浩一教授(サービス情報学)は「個人情報を活用するビジネスで日本は遅れていた。個人向けサービスの質を高めるのは、産業の振興にもつながる。AI(人工知能)の運用、開発にも有効だ」と指摘する。
いったいどんなデータが集められているのか。実は、ユーザーは誰でも自分のデータを手元に取り戻すことができるようになってきた。背景にあるのが、本人が企業にある自分のデータをコントロールできるようにすべきだとする「データポータビリティ(持ち出し権)」という考え方で、EU が昨年 5 月に施行した GDPR(一般データ保護規則)で定めた。
まずグーグルだ。A 氏の場合、全データは 2.5 ギガバイトで、一般的な文字メールで 25 万通分に相当する。今のアカウントを使い始めた 2010 年からの全てのメールや検索履歴、地図位置情報などが見られた。グーグルマップの検索履歴からは、学生時代の家の住所、よく通った取材先の住所が出てきた。はるか昔に友達とやりとりしたファイルもある。検索履歴をみると、やたら貸衣装店を検索した時期があるが、何のためだったか思い出せない。このデータは、A 氏自身より「A 氏」を知っている。
フェイスブックでも同様なデータがダウンロードできる。使い始めた 08 年以降、どの友達の投稿に「いいね」を押したのか、どのようなコメントをしたのか。鮮明なアルバムを見ているようだ。他のサイトの閲覧履歴や加入しているコミュニティー、属性などから、A 氏が「興味がある」ものが判断され、関連する広告が表示されているという。自分の連絡先を知っている広告主のリストもわかる。
特定の情報銀行がデータを独占し、個人が自分の情報を動かせなくなる事態を避ける必要がある。日本で新たな情報サービスが動き出そうとしている今、自分のデータの利用をどこまで許すのかを選択することが、ユーザーにも求められている。