ホームドアを考える

みんなの未来構想

未来構想PF 会長

山本卓朗

 

先般、ある小さな研究会で、「JR東日本のホームドアへの取り組み」について講演いただく機会を設けました。駅のホームでのやっかい取り付け作業とはいえ、工事的に見れば空調などと同じく機械設備の設置であり、内在する課題などが見過ごされがちです。しかし、40年前には”無くて当たり前”の設備であったけれど現在は”あって当たり前”になりつつある厄介な代物です。そして気が付いたら膨大な数量のメンテナンスに追われることになりそうです。

 

”たかがホームドア、されどホームドア”

 

都心での設置工事を目の当たりにしている今のうちに、専門家も利用者も大いに関心を持って議論してほしいと考える次第です。

 

歴史で見れば、世界初といわれるのがロシア:サンクトペテルブルグ地下鉄(1961年)だそうで、わが国では東海道新幹線熱海駅(1974年)、在来線では東京メトロ南北線(1991年)などとなっています。すでに長い歴史を持っていますが、わが国で都市交通での必要施設として関心を浴びるようになったのは、2006年のいうわゆるバリアフリー新法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)あたりかと思います。さらに2011年の山手線目白駅の自己、2016年の東京メトロ青山一丁目の事故などを受けて世論が高まってきました。バリアフリーから始まった整備ですが、急激に進む高齢化も世論を後押ししていると思います。
高齢者の一人である私自身もホームドアのおかげでホーム上での移動に不安を感じなくなった経験から、整備を推進することに異論はありませんが、”どこまでやるか”という点については、保守料が増えてしまうといった企業経営の観点からだけでなく、旅客の自己責任との兼ね合いも大いに議論したいところです。あるのが当たり前になると、”事故があったのはホームドアがなかったから”という意見が出てくることは容易に予想される事態でしょう。学校での子供の事故を教師の管理責任にしてしまう事例などが頭に浮かびます。海外の観光地などでは、風光明媚な崖プチに防護柵のないのも当たり前ですし、昨今の我が国の自己責任の希薄さが大変気になるところです。

設置数が急激に増加するため、コストダウンにも真剣に取り組んでいるとのことですが、今後のアジアの国々への普及などでは、国際基準への視点も重要と思います。将来ビジョンを明確に持つべきことは、インフラ整備に共通する課題ですが、ホームドアについても冷静かつ幅広い議論を期待する次第です。