(株)ライトレール 代表取締役社長
阿部 等
■鉄道の未来を拓くために
小見出しは、1985(昭和60)年7月『国鉄改革に関する意見』の副題で、私はその年、東大の都市工学科の修士課程に進学しました。卒論は「鉄道の運賃とサービス水準の関係」、修論は「鉄道における高負担・良質サービスの提供可能性」をテーマとする一方、国鉄改革について一心不乱に勉強しました。
そして、鉄道の未来を拓くのに分割民営化は不可欠だと確信すると同時に、「鉄道は伸びない、関連事業の隆盛こそが大切」との世論の広がりに不安を感じていました。その発信源は国鉄改革の世論形成に大きな役割を果たした朝日新聞で、「鉄道は伸びない」と書き続け、全てのマスコミがそれに追随し、社会全体の空気となりました。
その代表が、JR発足の1987(昭和62)年4月1日の朝刊一面『鉄道再生への道』に「事業多角化へ知恵を」「合理化と多角化こそが鉄道再生の王道」と書かれたことで、私は鉄道の発展を妨げた罪深い世論誘導だったと30 年来の憤りを感じています。
■鉄道は成長産業
人々の考えも社会の空気もマスコミが形成します。ヒトラーの台頭も日本の第二次大戦への突入も、マスコミによる世論形成が大きな役割を果たしました。私は、マスコミの作った空気に反して、「鉄道は成長産業」との考えを小学生以来、40 年間以上持っています。
1987(昭和62)年に新会社の採用はなく、1988(昭和63)年に博士課程を中退し新会社1期生としてJR東日本に入社しました。「鉄道は伸びる!」との信念を持ち業務に邁進しましたが、残念ながら社会の空気は異なりました。そして、鉄道発展の小さくとも成功モデルを創りたいと志し、2005(平成17)年に退職して(株)ライトレールを創業しました。
この稿では、鉄道を伸ばす具体的なアイデアをいくつかお示しします。
■混雑と遅延は解消できる
小見出しは、週刊東洋経済 臨時増刊『鉄道全真相2016』に寄稿した記事のタイトルです。
運転取扱の効率化、ダイヤの工夫、信号の機能向上等の5方策により複線鉄道で1時間の運行本数を45 本まで増やす提案です。現行の各路線は1時間に20~30 本なので、1.5~2倍以上の輸送力増強を、新線建設や複々線化よりはるかに低コストに実現できます。5月11 日深夜のTBS「上田晋也のニッポンの過去問」でもお話しました。
■満員電車の解消はビジネスチャンス
私は、鉄道事業者が満員電車を解消するのに、社会的使命に基づきではなく、民間企業として正々堂々と利潤を追求すべきと考えています。5方策により各線の輸送力を1.5~2倍以上にして満員電車を解消すると同時に、鉄道事業者の収益性を大幅に向上する方策があります。割増料金による着席サービスを徹底的に提供することです。
そもそも、着席と立席は商品価値も生産コストも異なり、価格が同一であること自体が不合理です。着席は立席より高価格として当然で、20 世紀はその価格差を着実かつ低コストに徴収する方策がなく、やむを得ず同額としていましたが、21 世紀はICカードリーダーと跳ね上げ式座席の組合せにより実行できる時代となりました。それにより、中央快速線へのグリーン車導入よりずっと収益性の高いビジネスを展開できます。
首都圏の全路線へ同じ施策を展開すれば、年に数千億円の増収をもたらすでしょう。
■羽田空港アクセス
2016(平成28)年4月に、東京圏における今後の都市鉄道のあり方についての交通政策審議会答申が15 年ぶりに策定され、JR東日本の羽田空港アクセス線への期待が高まっています。しかし、冷静に考えてみましょう。
田町駅付近で東海道本線と大汐線を繋ぐのに、東海道新幹線と交差し大工事となります。一方、その付近にある東海道新幹線の大井車両基地への回送線を活用すれば、在来線経由より安上がりに羽田空港へアクセスできます。東京駅から17km を平均80km/h でわずか13 分です。さらに、東海道新幹線と東北・上越・北陸新幹線を直通運転させることは大きなコストを要さずに実現でき、羽田空港とJR東日本の全新幹線沿線を直結させられます。
つまり、東海道本線よりも東海道新幹線を活用した方が、はるかに便利な移動サービスを低コストに実現できます。年に数百億円の増収をもたらすでしょう。以上を含め羽田空港アクセス鉄道を交通整理して全体最適にすべきです。南武線ルートも有望です。
■交通ビジネス塾、鉄道講座
交通ビジネス塾は、弊社が主催し間もなく100 回に達します。毎回、交通分野の第一線で活躍する方を講師にお招きし、喧々諤々の議論を重ねています。
鉄道講座は、工学院大学オープンカレッジの講座で、その事務局を弊社が請負っています。鉄道の様々な分野の専門家から話を聴けます。
いずれも、鉄道や交通やまちを発展させるための知識や人脈や意欲を獲得する場として活用して下さい。「鉄道は伸びる!」と思って下さった方の参加をお待ちしています。