震災復興の現場から見た今後の地域公共交通のあり方への一考察

みんなの未来構想

JR 東日本 復興企画部長

熊本 義寛

この3月11 日で、東日本大震災の発災から丸四年を迎えた。さまざまな議論や経過を経ながらも、多くのまちでかさ上げや区画整理、防潮堤や震災復興住宅の建設が進められ、復興の槌音が力強く感じられる昨今である。
当社においても津波で被災した6線区のうち、八戸線は既に全通、石巻線は本年3 月21 日、仙石線は5月30 日にそれぞれ全線で運転再開する予定だ。特に後者は松島付近における東北線・仙石線短絡線も同時開業することで、大幅な輸送サービスの改善が期待されているところである。常磐線の相馬・浜吉田間は内陸側へのルート移設工事が最盛期を迎えており、福島第一原発事故により不通となっている竜田・原ノ町間も先ごろ政府から方針が示された。気仙沼線、大船渡線はBRT による仮復旧を行い、現在も専用道路の整備を進めながら鉄道時代の2~3倍の本数を走らせており、地域の足として評価されつつあると感じている。また、山田線は先日三陸鉄道への移管について関係者が合意し、3 月7 日に宮古駅で着工式を行い、今後復旧工事を進めていくこととなる。

気仙沼線、大船渡線、山田線の鉄道復旧に関する関係者との議論の中で、今後の地域公共交通のあり方について感じるところがあるので、その一端を述べ読者のご批判を仰ぎたい。
最近はやりの「地域創生」を持ち出すまでもなく、わが国の今後の持続的成長と継続的な発展には、地域の活力維持は重要であり、地域公共交通を維持存続していくことの必要性は言うまでもない。しかし現実には、津波被害を受けた東北地方の多くの地域交通はマイカーに頼り切りで、鉄道も路線バスも通学生とご高齢で運転免許を持たない方々の救済手段となっているのが実情である。

われわれ鉄道事業者としては、「鉄道は重要なインフラ」「全国のネットワークが大切」「免許を持たない人の生命線」などという信頼や期待を寄せられることは大変ありがたいことである。しかし翻って利用の現実をみたときに、一次元の乗物である鉄道は地域のニーズにどれだけ応えられる手段なのだろうか。この3線は震災前の輸送密度がJR 発足時の3割~6割、400人~800人程度まで減少しており、選択されない交通機関になりつつあった。当社の努力不足も否めないが、利用者減に伴い運転本数も1日に十本程度の頻度しか提供できておらず、整備が行き届いた道路、相対的に安価となった自動車の利便性には太刀打ちできなくなっていた。役場や病院の建替えの際は、郊外で広い駐車場を確保できる場所に移転が進んだ。幹線道路沿いには全国資本の大型SC ができ、飲食のみならず、ゲームやシネマなども備え、家族連れや若者のグループで賑わっている。自動車は一家に一台でなく、免許保有者一人に一台、近所のコンビニに行くのも自動車、というのが地方の実態である。
しかし、こうした自動車中心社会が進展する一方で、取り残される人も増えている現実がある。少子高齢化が進んでいるが、加えて核家族化が進んでいるということが地方交通を議論するうえで大きな問題となる。従来、地方では3世代同居は当たり前で、家族の誰かがお年寄りの移動を支えてきた。今日の日本で最も多い世帯人数は1人との統計がある。こうした単世帯、一人世帯の方が高齢化すると移動難民が増加していく。自由に外出できない高齢者は健康を維持することが困難になり、医療費などの自治体負担の増加を招く。地方交通の問題は、地方自治体にとってますます大きな課題となっていくと思われる。
こうした中、2013 年12 月に交通政策基本法が施行された。同法では地域の交通施策を策定・実施するのは地方自治体の責務と位置付けている。先進的な取組みが進んでいる富山市などでは公共交通の利用者が増加するとともに医療費・介護費の自治体負担が減少し始めたと聞く。今後、様々な自治体で利用者に真に役に立ち、持続可能な公共交通のあり方について議論が進んでいくと思われる。気仙沼線、大船渡線は被害の大きさ、安全確保やまちづくりとの整合、他のインフラとの交差などの物理的調整、多額の費用の負担など多くの課題を抱えていること、また上記のような問題意識を背景に、一つの新たな輸送サービスとして、地域への提案を込めてBRTによる仮復旧を進めてきたところである。この春には大船渡線で一駅間、専用道の新規供用を開始する予定で、気仙沼駅ではディーゼルカーと2系統のBRTが同じホームで接続することになる。今後もご利用のお客さまの声に耳を傾け、BRTのハード・ソフト両面の改善を更に進めながら、お客さま、自治体や地域の方々など関係者とともに、地域の維持発展を支える持続的な地域公共交通のあり方について、更に議論と認識を高めて行ければ幸いである。