建設業界におけるカーボンニュートラル達成に向けて

まち

鉄建建設㈱
常務執行役員サステナビリティ推進室長
酒井喜市郎

2020年10月26日、時の首相である菅義偉氏が国会の所信表明演説において、日本が2050年までにカーボンニュートラル(CN)を目指すと宣言して以来、全国民、全産業が脱炭素に向かってそれぞれの役割を果たすことが求められています。本レポートをお読みの皆様方も例外ではありませんが、それぞれどのような役割を果たしているのでしょうか。
地球温暖化防止が喫緊の課題である事は、既に最近の異常気象や極端な気温上昇、激甚災害の増加により読者自身も身をもって自覚されていると思いますが、この気候変動や自然災害のリスクを最も重要視しているのが世界の金融に携わる関係者となっています。世界、特に欧米の金融界は2008年に市民生活に大打撃を与えた「リーマンショック」の再発を防止すべく、気候変動リスクが経済に与える最大のリスクと捉え、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の枠組みを策定し、企業に対してこの枠組みを遵守するよう求めています。我が国も2022年度より東京証券取引所がガバナンスコードを変更し、プライム市場上場会社に対し「TCFD」の枠組みを遵守することを求めました。各企業はこの枠組みに従い、気候変動に対応可能な組織改革を実施、中長期に亘る温室効果ガス削減目標を定め、それを成し遂げるための戦略や、状況変化に伴うリスクと機会を分析し、経営戦略に反映させてきました。

図❶ バックキャスティングと フォアキャスティングの概念

図❷ 2050 年カーボンニュートラルの概念

ここで気候変動対策をよく考えてみましょう。図❶、❷に示すとおり、気候変動対策は到達目標を定めその目標に向かって将来に向けて何をしていくのかを検討する、いわゆる「バックキャスティング」の考え方で推し進める必要があります。しかし実現可能なエネルギー政策は、現状を把握しつつ将来に向けて改善を実施し、その結果として将来の結果が出てくる「フォアキャスティング」で議論するものであり、この両者が的確にかみ合うかは政治、経済、技術開発、国際情勢などに大きく左右されることとなります。企業におけるCN達成は、この相反する2つの議論を合理的に結びつけ、地球規模で議論される事柄を、的確に一企業に落とし込む、非常に難しい、しかし避けては通れない課題なのです。
建設業界における温室効果ガス(主にCO2)の発生源は何があるでしょうか。まず建設工事自体で発生する、直接的発生源(燃料、電力等)があげられます。これは専門的に言うとスコープ1、2に分類されます。そして建設工事の上下流で発生するもの(材料、運搬、加工、廃棄物等)、間接活動(設備投資、企業活動など)、未来の発生源(建設物の使用LCC及び解体)等があり、これらは全てスコープ3に分類され、スコープ1、2、3の総量が建設企業で発生させるCO2とされています。また建設業の大きな特徴として、土木、建築とも受注産業であり、仕様は発注者が決定、ほとんどが単品生産、メーカーのように自社仕様で大量生産、工場での一括管理にはほど遠い実態があげられます。さらに、材料や建設機械、燃料や電源等はメーカー次第、自分で決められる範囲は極めて狭く、唯一LCCにおけるネットゼロ(ZEB等)にその活路を見い出すほかほとんど打つ手がないという状況です。またその特徴からCO2発生量の把握にも非常に多くの労力が掛かっているのが現状で、各社でもその対応に苦慮されていることと思います。
とは言え、各社が手をこまねいているわけではなく、独自の研究開発やメーカーとの共同開発、再生可能エネルギー事業への参画など、様々な取り組みが進められています。また業界団体でも外部への働きかけを実施するなど、建設業全体の底上げを進めています。関係する方々におかれましても、それぞれ自分は何が出来るのか真剣に考え、それを実行に移していくことが重要だと思います。