「先の見えない時代」をどう生きるか
会長 山本卓朗
明けましておめでとうございます。
1 年があっという間に過ぎ去っていきますが、それにしても毎年経験したことのない出来事が繰り返されて「いや、大変な年だったね」と述懐ながら過ごしています。国際政治は一言でいえば”はちゃめちゃ”、旅をすればインバウンドの予約で一杯、梅雨や台風は年々巨大化、昨年も多くの被災者を出してしまいました。少子高齢化を実感することも多くなりました。最近のベストセラー河合雅司著「未来の年表」では、人口の急激な減少で何が起こるかを年表的に記載し、政治家の「少子高齢化に歯止めをかける」という演説は、あまりにも楽観的過ぎると強い警鐘を鳴らしています。
どうもお先真っ暗で、まさに「先の見えない時代」に入ったなと思いつつも、手をこまねいているとゆでガエルになるのは確実です。私が良く使う言葉に「思考停止社会」というのがあります。コンプライアンスを法令順守と訳したために、お役人も企業のトップも法令規定にがんじがらめとなり、未来に向けて新しい発想をする機運がまるでなくなってきたように感じます。今年こそコンプライアンスの呪縛を解き放って、”しなやかに、したたかに、大胆に”過ごそうではありませんか。
難しい事態に直面しても、冷静沈着に柔軟に、将来の方向をきっちりと見定めて、力強く決断する。もちろん言うほど簡単ではありませんが、多くの仲間と意見を闘わすことで答えを見出すことが出来るでしょう。
今年も未来構想PF はしっかりと将来ビジョンを追いかけていきたいと思います。
本年もよろしくお願いいたします。
アジアにおける都市と鉄道に関する法制度の改善
理事 森地茂
平成27 年度からJICA と政策大の協力でSPRI (Strategic Policy Research and Innovation) Program が始まっている。ASEAN 諸国政府の課長・部長級の人材に対する、法制度改革のための研修である。日本の関係省庁の協力も得て、日本での2 週間の研修を2 年間で6 回行い、提言をまとめて、自国で大臣、局長をはじめ専門家の参加するセミナーを行い、制度改革を推進するものである。
筆者とUR の国際室長と、国交省の鉄道局・都市局が指導しているミャンマーの住宅政策担当部長と都市計画担当課長の研修内容は以下の通りである。都市計画制度、土地収用関連制度、住宅制度について、①ミャンマーの課題、②関連法制度の歴史的変遷、③日本の制度との国際比較、④ミャンマーと日本の具体的プロジェクトの比較分析、⑤その背景としての法制度の改善策の提言をPolicy Paper としてまとめるのである。大臣、次官、局長も参加した12 月の現地セミナーでは建設的議論がなされ、海外からの投資のためには、用地取得などに関する制度改善が緊急の課題であると認識されているようであった。ベトナムからも用地取得に関する研修が今年度終了するが、両国では土地登記や土地鑑定制度を導入するための日本の法務省による支援も始まっている。
来年度は、ミャンマーからのTOD (鉄道沿線開発:Transit Oriented Development)の研修生が決まっているが、すでにタイからもTOD の研修生を今年度から受け入れている。
インフラ輸出推進のバックアップとして、日本の事例も参考にした法制度の改革には、関連日本企業の意見反映が必要不可欠であり、また、日本人社員がこの分野の専門性を持つためにも、この様な事業に民間企業が関与する意義があるのではなかろうか。
(政策研究大学院大学)
TOD Practice in Japan
理事 矢島 隆
鉄道分野の海外展開が政府主導で進められている。その際に、鉄道システムや車両だけでは国際的な価格競争に不利であり、我国の得意分野である街づくり分野と抱き合わせていわゆるTOD(Transit OrientedDevelopment)の形をとることが望ましいとされている。しかしながら海外に我国のTOD を紹介するにしてもまとまった英文のテキストがないのが難点であった。実際、私が依頼を受けて行った国連大学・JARTS等の主催による開発途上国鉄道関係者向け研修(2018 年2 月)やアジア開発銀行鉄道担当職員研修(2017年6 月)における講義はいずれも英文のPPT を手作りせざるを得なかったのであった。
そうした背景から国土交通省都市局の予算により、家田先生と筆者の共著である「鉄道によって創り上げられた世界都市・東京」(2014 年3 月,(財)計量計画研究所)の英文訳が進められ、原著を分担執筆した方々を主とするチームによって訳文・訳語の修正・校閲が行われ、昨年末に2 年越しに一応の完成をみた。修正・校閲の作業も全くのボランティアベースで行って頂いた点も含め、校閲チームの方々には厚くお礼を申し上げる次第である。
英語版のタイトルは、” TOD Practice in Japan ; Tokyo , A Global City Created by Railways (1stEdition) “である。
英語版は原著の全体を翻訳したものではなく、鉄道の海外展開に有用と考えられる章節を抜き出して英文化したもので、全体の分量の約6 割を英訳したものである。国土交通省は、新年3 月末を目途としてホームページ、印刷物等の形で英訳版を公表する予定である。
我国が20 世紀を通じて実行してきたTOD の実績が広く海外に発信され、今後の開発途上国を初めとする各地で鉄道プロジェクトに併せて、現地の実情に合わせたTOD が展開されることを願ってやまない。
2019 年の私の初夢と言えようか・・・。
(区画整理促進機構)
東京圏公共輸送の一層の改善を図るには
理事 只腰憲久
東京圏は、今後夜間人口の減少が見込まれるなかで、その交通状況は一服状態ともいわれるが、一方で昼間人口の増加やインバウンドの増加に象徴される交流人口の増加も予想される。かつては通勤輸送への対応に追われていたが、郊外鉄道は先が見えてきた感もある。しかし都心部に位置する路線は、諸外国と比べても朝夕のみならず昼間の時間帯でも混雑していると感じられる。今後は、こうした現状を改善し、快適な輸送の実現に向けて関係者が努力を積み重ねるべきであろう。
なかでも、東京圏に9路線320 キロに及ぶ路線網を持つ東京メトロの一層の活用が求められている。同社は2004 年に会社化して以来、黒字基調が続いている。それ自身は好ましいことかもしれないが、前身の営団の時代から儲けるための会社ではないはずである。現在は出資者である国と都に高額の配当をしている一方で、財務省からは新規投資は許されていないと聞く。会社である以上、JR 東海の例を見るまでも無く、本来減価償却見合いの投資をしても良いはずである。まだ十分使える電車の置き換えや、弥縫策でしかない中間駅の2面3線化などの疑問符がつく設備投資では、十分な役割を果たしているとは言いがたい。
例えば、東葉高速との直通化もあって輸送力の限界が来ている東西線については、有楽町線への乗り入れを行いつつ部分的な複々線化を検討すべきであろう。乗り切れない混雑が常態化している銀座線は、今後の沿線の都市再開発の進展でますます殺人的な混雑をきたすに違いない。かつて一部着手したものの放棄した長編成化に、困難でも再び取り組むべきではないか。また、将来に向けて開発が進む品川までの地下鉄線の延伸に名乗りを上げ、その整備に取り組んでもいいのではないか。
財政的にも技術面でも潜在的な実力を備えた東京メトロが、真に有効な都市交通施策に貢献できるような仕組みづくりが、いまや求められている。
(小田急電鉄)
溢れ返るプラットフォーム
理事 斉藤 親
色々な人が行き交い触れ合うプラットフォームは、本会の名前の由来。ところが最近、山手線周辺などの一部の駅で、行き交い触れ合うどころか、人が溢れ返り、果ては入場制限といった事態が増えていると聞く。私の住んでいる品川区大井でも、JRと東急が交わる大井町駅の朝夕混雑は悪化の一途で、静かだった西大井駅でも乗降客の急増を肌で感じる。
国が人口減少時代に突入する中、東京は当分の間増加を続けると言われているが、鉄道駅から見ると、何が起こっているのか、もう少し詳細にみる必要がありそうだ。大崎・武蔵小杉に代表される駅周辺再開発が乗降客増をけん引してきたことは言うまでもないが、新たな視点として二つ挙げておきたい。一つは若年層に顕著な「駅周辺居住」志向で、車離れとも相まって既に、北千住・日暮里や京葉線東京近傍などで見られ、住宅業界では今後更に進むと見ている。もう一つは、特に今後本格化が予想されている「サテライトオフィス」の進展で、JR の新たなエキナカ展開も一役買うことになろう。
この二つは、従来の郊外と都心を結ぶ大都市通勤交通のパターンを完全に変えてしまう意味があり、結果として、鉄道駅や車内に新たな課題を提起することになるであろう。是非、鉄道のみならず都市の在り様も含めた総合的観点から、「望ましいプラットフォーム」論議を期待します。
(東日本旅客鉄道)
地方都市の中心市街地の状況
理事 田中滋夫
新年あけましておめでとうございます。ここしばらく、地方都市の中心部再生を現場で手伝い続けています。
震災復興と絡んで、石巻の中心部再生を手伝っていたが、担当していたプロジェクトがひと段落ついたので、今は主として中国地方の中都市市街地の蘇生に取り組んでいます。
地方都市の中心部は、高度成長期の繁栄が著しかった所ほど反動で市街地劣化が激しい。成長期からかなりの期間、集中的な建設投資がなされ、それが今になって激しく劣化をきたしているからである。中心部の再生はよくソフトからと言われるが、私の考えではハードが邪魔をして、ソフト展開をしたくとも出来ない。言わば両足縛られて走れと言われているようなものである。交通、歩行環境、建物利活用の相互が組み合せ劣化を起こしており、その抜本的な対策を講じることが出来ない状況におかれているのである。
例えば、私が主としてたずさわる建物の利活用でいえば、建築基準法の度重なる改正、要求水準のレベルアップにより、多くの既存建物のリニューアル改造、ニーズに合わせた用途変更は現実的にはハードルがものすごく高く、殆ど手がつけられない。やむを得ず解体を考えても多くの規制からコストと時間がかかり、更地にするコストが地価を上回るケースが多い。無理して更新しようにも成長期までの商店街の道路は狭く斜線制限で高度利用は出来ない。
「活用できない、建て直せない、解体、更地化も出来ない。」課題は解っているが、ハード上の制約が解決に向けての根底を縛っている。根幹的なハード規制が組み合わせ的に形成されており、打開の目途がつかない。これが地方中心市街地の状況である。
このような中で少しでも何とか出来ないか、思い切った対策を取って見ようと決意した街を手伝うべく、しばらくは地方通いを続けるつもりです。本年もよろしく。
(都市デザイン)
平成から新元号へ
理事 溝畑靖雄
飛鳥時代の大化に発する元号(平成)は、平成31 年4 月30 日の平成天皇の退位にともない5 月1 日には新元号が公布される。明治以降一世一元制となり「昭和」が64 年と歴史上もっとも長い年号であるが、その後、31 年続いている平成と合わせるとほぼ一世紀に近い昭和・平成時代は、今後比較されながら語られることになるのは昨今のメデイア報道を見るとおりであるが、未来に向けて次の元号の時代は?と考えるのも自然の流れであろう。
昭和と平成をもっとも際立たせるのは戦争の有無であろうが、戦後の著しい経済成長が、平成に入ってバブルの崩壊と共に低成長時代に入り、未だに元に戻らないなど二つ時代には異なるものも多い。
鉄道のように経営形態は民に変わったものの、提供するサービスは変わらないが、同時に民営化された通信分野のように経営形態も提供サービスも大きく変わった分野もある。
昭和47 年頃、経済企画庁で国の「社会資本整備5ケ年計画」を担当していたが「これから通信網が発展して鉄道輸送を補完出来るので電電公社の予算を増額すべし」に対して「通信が便利になればなるほどフェイスツ-フエイスの旅客が増加する」とそれぞれの分野に対する国の投資額を競い合った事を思い出す。通信分野はGAFA の基盤を支える技術として成長を遂げたが、コンピューターなどIT の新分野との連携で新しいものが生まれてくるのも当然であろう。
東京オリンピックと大阪万博の時代に当時の国鉄に飛び込んだだけに、昭和の隆盛を再現するために平成時代に粘り強くタネをまき、来たるべき時代に大きな夢を持たせる東京オリンピックと大阪万博を再度決定した事に強い感動を覚える。もちろん55 年余の歳月は、少子高齢化、人口減少、過疎化など当時とは異なる社会背景の相違をもたらしてはいるものの、いつか来た道を歩む思いで新しい時代を切り開く好機を逃がさないようにと思う年の初めである。
(JR 東日本コンサルタンツ)
新年を迎えて
理事 藤森伸一
新しい年を迎えました。今年は年号が変わる節目の年です。また、東京オリンピックパラリンピックの開業まで1 年となり、準備に忙しい年となります。ラグビーワールドカップが開催され外国から多くのお客さまが訪日することでしょう。また、参院選や統一地方選など選挙の年でもあります。10 月には消費税の増税が予定されています。様々なことが行われ、色々な要素が混ざり合い、どんな年になるか予測は難しいですが、新年号の元年にふさわしい活気に満ちた明るい年になることを期待します。
10 歳の女子の囲碁プロ棋士が誕生することが報道されました。あどけなさの中に確たる自信を感じます。将棋、卓球、フィギアスケートなど10 代の若者の活躍に目を見張ります。少子化と言われていますが、多くの小さなダイヤが大きな光を放っています。未来の光を感じます。
新年早々、山手線における自動運転の映像が公開されました。いよいよ日本でも通勤電車の自動運転が実現しそうです。IOT、AI、ビックデータ、ロボットなどの技術が進化しています。人口減少や少子高齢化などの様々な課題を抱えていますが、解決策に向けてこれまでにない変化も感じます。
今年も皆様とともに「未来構想プラットフォーム」を通じて交流をはかり多岐にわたる情報を交換していきたいと思います。本年もよろしくお願いします。
(鉄建建設)