土木技術者のレジリエンス能力の獲得
-山本卓朗氏,森地茂氏,只越憲久氏から学ぶ-

ひと

芝浦工業大学工学部土木工学科教授

岩倉 成志

 

わが国は、国・自治体の財政上も交通企業の経営上も社会基盤投資が困難な状況下で、従来に増して複雑で対応が難しく、質的な転換が求められるインフラ計画の時代を迎えている。レジリエンス能力とは、「困難あるいは脅威的な状況に上手に適応し、それを遂行する能力」と定義される。これからの日本には、このレジリエンス能力を備えた人材を多く輩出することが重要かつ必須と考える。しかし、近年の構想・計画期間の長期化とプロジェクトの減少、説明責任に伴う意思決定権限の縮小などによって、土木エンジニアのレジリエンス能力の低下が顕在化しているように感じている。

このたび、未来構想PF 技術講演会(11/26)で、標題の発表をいただく機会を得た。2016 年度より山本卓朗氏、森地茂先生、只越憲久氏(他にも今野修平先生、藤井治芳元建設省事務次官、矢島隆元建設省審議官、中村良夫先生)のご協力を得て、長時間インタビューを行いオーラルヒストリーを作成する機会を得た。プロジェクトの難局を乗り越え、その多くを成功に導いた経験を分析し、土木技術者に必要なレジリエンス能力はどのように培われるのかを分析し始めている。

心理学分野では1970 年代からレジリエンス能力の研究が始められており、Masten et al.(1990)は「困難あるいは脅威的な状況にも関わらず、上手に適応する過程、能力あるいは結果」と定義し、Grotberg(1999)は「逆境に直面し、それを克服し、その経験によって強化される、または変容される普遍的な人の許容力」と定義している。ペンシルバニア大学心理学科レジリエンスプロジェクト代表のKaren Reivich(2002)の研究では、レジリエンス能力の構成要素には、Emotion Awareness and Control(感情認識と制御)、Impulse control(衝動制御)、Empathy(共感力)、 Realistic Optimism(現実的楽観主義)、Causal analysis(原因分析力)、Flexible Thinking(柔軟な思考)、Self-efficacy(自己効力感:自分が達成できるという信念)、Reaching out(働きかける能力)の8 種類があるとされている。これに加えて、Martin Seligman(2011)の著書ポジティブ心理学の指標の中から知恵と知識(独創性、好奇心や向学心、批判的思考、大局観など)、勇気(忍耐力、勤勉さ、誠実さ、熱意など)、正義(社会的責任、公平さなど)、節制(謙虚さ、思慮深さ、自己管理)もレジリンス力を高める要素と考えている。

本発表では心理学分野で解明されつつあるレジリエンス能力の構成要素を下敷きに、三氏の能力がどのように養われていったのかを紐解き(例えば、①幼少期に親や教師から倫理観や正義の必要性を伝えられていること、②青年期に教員や上司からいかに社会に役立つべきかといった人生観を伝えられていること、③若手技術者のうちに一定のハードルをもつ数多くの業務経験を積むことの重要性などがレジリエンス能力の育成に影響していること等がわかってきている)、現代にも生かせるプロジェクト遂行能力向上の鍵をみなさんと議論したい。