新宿南エネルギーサービス(株) 代表取締役社長
土井 研介
1.地域冷暖房事業と熱供給事業法の改正
御承知の通り、電気事業法が改正され本年4月より「電気の小売り全面自由化」となりました。ガス事業法及び熱供給事業法と合わせて、所謂「エネルギー分野のシステム改革関連法」が昨年6月に成立しております。
地域冷暖房事業は、熱供給事業法に則り事業を行っていますが、上記三法とも経済産業省・資源エネルギー庁の同じ部で所管しています。事業の小売り全面自由化を図るため、市場の垣根を外していく供給構造改革等を推進することが、共通の目的です。ただし、熱供給事業法の改正作業を行うに際しての経済産業省の基本的な考えは、電気事業法は改正せざるを得ないが、熱供給事業者が困らないようにすることでした。
改正熱供給事業法により、熱供給事業は「許可制」から「登録制」となりました。また、料金規制や供給義務等の規制緩和を図る一方、需要家(当社はお客さまと呼んでいます)保護の観点から、料金その他供給条件等を説明し、且つそれらを書面交付することが熱供給事業者に課され、説明責任も負わされることになりました。事業者にとっては従来よりも負担が大きくなった感があります。
2.地域冷暖房事業と当社
本年3月末にオープンした「JR新宿ミライナタワー」に熱を供給しています。線路上空にある「バスタ新宿」、「JR新宿駅新南口」や「ルミネゼロ」にも供給することになっています。線路の西側にある新宿マインズタワーと東側にあるタイムズスクエアビル・アネックスの地下に、其々冷熱と温熱を造るプラントを設置してJR本社ビルや髙島屋新宿店を始め12棟の建物に冷水と蒸気、温水を送っています。
当社の成立ちに触れます。国鉄中央鉄道病院跡地と国鉄新宿駅貨物跡地は、国鉄清算事業団に帰属されました。これらの土地を売却する際、更地のままでは、都政業務に支障するとのことから、建物を建設して土地と合わせて処分する方法が新たに生み出されました。この処分方法は日本で初めてであり、摘要の第1号と第2号の物件となりました。また、同時に公害防止の観点から「地域冷暖房システム」を導入するようにとの行政指導があり、将来一つにすることで二つの地域冷暖房会社が設立されました。設立に当たっては、種々の課題があり初代社長の山口良雄氏から苦労話を聞きました。3年前に合併することが出来、当社が存続会社となりました。
3.地域冷暖房事業と街づくり
地域冷暖房事業は公益事業であると説明されていますが、公益事業者の公益物件を収容するために設けられる、通称「共同溝法」には熱導管が入っていません。事業者が事業上最も懸念するのが、プラントと建物を結ぶ熱導管の設置です。道路の下に設置することは容易ではなく、今回の熱供給事業法の改正に際し、関係の事業者から熱導管の道路下設置について多くの意見がありました。
髙島屋新宿店の歩行者デッキ下を利用して行われたミライナタワーへ熱導管を設置する工事は、国土交通省から、補助金が交付されています。「熱導管のネットワーク化」を進める施策に合致するとのことでした。条件がありました。線路の東側と西側に設置されている熱導管を線路横断して連絡することと、甲州街道を横断して、新宿駅西口方面まで設置されている熱導管と連絡することを、キチンと調査することでした。前者は、調査中であり、後者は、街づくりの内容が現時点では不明ですが、開発されれば床が増える、そうすると熱需要が増え、対応しなければならない。関係する方には、不可欠なインフラとして地域冷暖房システムを是非考慮して頂くようお願い致します。
小生は国鉄清算事業団で操作場跡地等の面大な土地を対象に、如何に付加価値を高めるか、且つ処分し易くなるか、との業務に関わりました。それぞれの土地と周辺地域を含めて作成した「土地利用の計画」に地域冷暖房システムを反映させれば、「新しい街づくり」に活かすことが出来たのではないかと今になって反省しています。因みに、国鉄清算事業団に帰属した面大な土地で、開発されている地域では、地域冷暖房システムが導入されている例が多くあります。
4.地域冷暖房事業と環境向上
昨年、COP21で2020年以降の温暖化対策の国際枠組みとなる「パリ協定」が、採択されました。21世紀社会は二酸化炭素排出ゼロを目指すものであり、地球環境問題が深刻さを増して、生活やビジネスの基盤である地球環境が壊れては元も子もないものであり、世界共通の認識となりました。
複数の建物に熱を供給する地域冷暖房システムは、個別の建物別に空調設備を設けるより、低炭素社会の創出やヒートアイランド対策に効果的です。
宇宙から撮った新宿駅周辺地域の大気温度を測定した写真を見ると、当社が熱供給している建物とその周辺の温度が新宿御苑と同レベルであり、熱供給していない建物とその周辺の温度のレベルは、より高くなっていました。
一般社団法人・日本熱供給事業協会の昨年度の調査研究で、”個別分散空調方式の方が地域熱供給方式に比べ、エネルギー消費量が多い”ことが示されました。更に、今年度の「空気調和・衛生工学会」大会でも発表予定とのことです。