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みんなの未来構想

東日本旅客鉄道㈱ 常務取締役

中井 雅彦

政府の経済政策「アベノミクス」の効果等により、日本経済は徐々に景気回復に向けた明るさが見え始めています。所謂「三本の矢」と言われる大胆な金融緩和による円高の是正、機動的な財政出動による公共投資の実施等により、長年、我が国が苦しんできたデフレによる停滞の時代を乗り越えようとしていますが、今後の民間投資を喚起する成長戦略が描けるかどうかによって真の経済復活の成否がかかっています。鉄道会社に身を置く者としても、お客様の動きが非常に活発になってきていると日々実感しており、是非、この流れを止めることなく、日本再生に向けて突き進んで行くことを期待しています。

加えて、昨年9月のIOC総会において、2020年の東京オリンピックの開催が決定され、日本中が沸き立ちました。首都東京が未来に向かって大きく前進していくきっかけになると思います。

さて、日本がますます元気になっていくためには、具体的な成長戦略を作成し推進していく必要がありますが、その一つは国をあげて「観光」に力を入れ交流人口を増やすことだと思います。国内観光の活性化はもとより、海外からの来訪者を増やしていくインバウンド施策も重要です。人の流れを活発にしていくためにオリンピック開催を一つの契機にするとともに、それ以降も含めた長期的な視野において国内が移動しやすくなるようインフラ整備を進めていくこと、そして、それぞれの地域独自の魅力に磨きをかけ、情報発信することが必要です。また日本の魅力を海外でPRすることも重要ではないでしょうか。当社も首都圏を含めた東日本エリアを担当する鉄道会社として、これに貢献していきたいと思います。

そのような中で、当社がなすべきことは、第一に都市間ネットワークの拡大・充実です。来春には北陸新幹線が金沢まで延伸になります。また、北海道新幹線の函館開業も目途がつく段階にまで来ています。まずは、首都圏と北陸地方、函館エリアの観光需要の創出に取り組みたいと思います。また、新在直通運転を実施している山形・秋田新幹線の安全安定輸送も対策もしっかり進めていきたいと思います。これら新幹線ネットワークを充実させて、都市間を快適に移動できるよう取り組んでいます。各都市の時間的距離が縮まることで、人の流動が活発化し経済の再生に寄与すると考えられます。

第二に首都圏ネットワークを充実させることです。来春開業予定の上野東京ラインはその代表です。開通した暁には、かつての湘南新宿ラインの時のように、東京圏の輸送体系を一変させることに繋がると期待しています。また現在、羽田空港と都心部のアクセスを向上させるための新線計画を検討しています。今後羽田空港の国際化や国内の航空需要の増加に伴い、羽田の発着回数が大幅に増えるものと予想されており、このためにも新たなアクセス線の整備が必要になります。この計画は、現在休止中の臨海部貨物線を有効活用しつつ、都心部へのアクセスを可能にするというものです。東京駅はもとより北関東方面からも上野東京ラインを活用して直接アクセスが可能になります。さらに計画次第では、新宿・池袋等の西山手方面や、京葉線を活用した千葉方面とのアクセスの可能性も広がります。現在、整備手法を含めてハード・ソフト両面から検討しておりますが、東京と国内外の各都市との距離が少しでも縮まり、東京が国際都市として相応しい街となる一助になると期待しています。

最後に、駅を中心とした地域の活性化に対する取り組みです。特に首都圏のターミナル駅を中心とした街づくりに貢献したいと思っています。一昨年復元した丸の内駅舎および昨年開業した八重洲グランルーフに代表される東京駅は、首都東京の表玄関に相応しい駅に変身し、大丸有地域と一体となった街づくりを進めています。また、スリム化した当社車両基地の跡地を含めた品川エリアの開発においても、国際交流拠点としての街づくりを進めており、新宿、渋谷、千葉等の各駅においても、周辺の街づくりと連携した駅づくりを進めています。駅は街の顔であり玄関ですが、周辺の街づくりと整合を取りながら同時に整備していくことが重要です。駅と街を活性化することにより、首都圏ひいては日本を元気にしていく原動力となろうかと思います。

外部環境が好転しつつある今だからこそ、成長戦略をきちんと実行すべき時期に来ています。日本経済を確かな成長軌道に乗せるために、必要な社会インフラはしっかり整備をしていく必要がありますし、既存ストックも維持するとともに有効活用していかなければなりません。将来に希望を持ち、日本という国に生まれ東京という街で暮らすことに喜びを感じることが出来るような、そういう東京を作り上げていきたいものです。