㈱日建設計
代表取締役 社長
大松 敦
コロナ禍がおさまり、海外からの旅行者が増えてきた。観光だけでなく、日本の都市づくりを学びに来る視察団の数も回復している。東京で彼らが感心することは交通拠点とシームレスにつながる「街のパブリックスペース」である。都心部においては鉄道駅と道路や公園などの公共用地や建物内などの民有地が一体となった快適な歩行者空間がますます拡張している。近年では道路を跨いだ空中公園や河川沿いの公共空間と民間敷地が連携した事例など、さまざまな領域を超えた歩行者空間が東京の魅力をいっそう向上させている。
コロナ前との違いは、こうした取り組みが地方にも広がっていることだろう。2019年に国土交通省が始めた「ウォーカブル推進都市」の募集に応え、本年9月末日現在では日本全国の352都市がウォーカブルなまちづくりを進めており、多くの実例も出来てきている。これらは、人々の外出機会や交流を促すことで、地域の経済振興への貢献が期待されている。また高齢化社会において歩く機会が増えることは、健康寿命の延伸による医療負担の軽減などの効果もあるだろう。もちろん国内外からの観光客にとっては魅力的なディスティネーションになる。
こうしたウォーカブルなまちの特徴は、さまざまな領域を超えて歩行者目線での魅力を高めている点である。自動車による歩行者空間の分断を最小限にするために多くの取り組みがなされているし、緑地や公園、河川区域などの水辺との連携によって街を楽しむための新たな視点を提供している。
しかし、何よりも日本のウォーカブルシティを特徴づけていることは、交通拠点との連携である。鉄道駅との連携については大小さまざまな取り組みが実を結んでいる。地方都市ではバスターミナルやLRT駅などと上手く連携できた歩行者空間も増えている。これからの時代は多様化が進むパーソナルモビリティとの関係も重要になってくるだろう。地域の個性や暮らしに合わせて、魅力的な体験を生み出す「日本的ウォーカブルシティ」を世界に発信していこう。