未来構想PF 会長
山本卓朗
インバウンドが急激に増加して訪日客は年3000 万人を超え、私たちの周辺がまことに賑やかになってきた。祇園の舞妓パパラッチなど悩ましいニュースも多いけれど、長く続いた経済の停滞ですっかりさびれてきた観光地など訪日客需要でほっとしている地域も多い。海外へ出かける日本人数は、 2000 万人位で訪日外国人数と開きがあるが、若者の語学力が格段に上昇していることも実感できる・・・と前向きに書き出してみたが、いえいえどうして、急速に進む国際化の障害となっている深刻な事態がどんどん顕在化しているのではないか。
●官民挙げて取り組む「インフラ輸出戦略」に異論はないが、我が国の強みのある技術・ノーハウを最大限に活かして 、というのは簡単な話ではない。今日の日本の技術には、明治の始めから先進国に追いつけ追い越せの努力をしてきた 150 年の積み上げがある。特に厳しい環境と巨大地震への対応、そして日本人向けの過剰なサービスを満たすために、ガラパゴス化といわれる特異なスペックを持つに至った。発展途上国は固定電話時代をパスして、いきなり有線網のない携帯時代に突入し、旧式な鉄道を近代化する時代をパスして、いきなり新幹線を導入し時 速 300 キロ運転を始めてしまう。 世界に冠たる日本の新幹線 を標榜しても高度なスペックを備えた重たいシステムは、コスト高の故に競争力を無くしている。インド新幹線建設に派遣されている仲間が苦労する所以でもある。高度な基準は災害国日本では必須としても、諸外国の実情に適応出来るフレキシブルな輸出基準をダブルスタンダードとして持つべきではないか。
●豊富な国内需要で潤ってきた日本の建設業は、独特の育ちから国際社会で大変苦労している。その間の事情は 絶滅貴種 日本建設産業(草柳俊二氏訳 栄光社)を読んで頂ければよく判 る。談合訣別でコンプライアンスのアキレス腱を克服した日本の建設業の次なる課題は、国際社会での生き残りをかけた戦略にある。
●民主党政権の「コンクリートから人へ」以来、社会資本整備の低調が続き、着実に整備を進める欧米諸国や猛追するアジアの発展国に比べ整備の遅れが顕著になってきた。社会インフラの遅れは、輸出コストに響くので国際競争での敗北に繋がる。本プラットフォーム通信 11 月号(第72 号)の森地茂氏「社会資本整備と財源」を読んで頂きたい。
未来構想プラットフォームの活動も10 年目に入ります。本通信も第 73 号ま で来ましたが、第2 号から分野を問わず目にとまった「国際比較データ」を掲載してきました(第 2 号 国際比較を身につけよう:山本卓朗)。 日本の常識は世界の非常識 とならないよう客観的に世界の動向を国際比較でみてみようという活動です。千葉県の台風でにわかに関心が高まった電柱の地下化(無柱化)は、 90 %に近い欧米に比べて 3 割程度、在宅勤務などのテレワークも 60 %を超える欧米に比べて 20 %程度。こういうデータをみながらこれからの社会について色々議論出来たらと思います。