三菱地所(株) 開発推進部副長
白根 哲也
1.はじめに
JRの東京駅と皇居外苑に挟まれた、千代田区の大手町・丸の内・有楽町の約120ha のエリアを略して大丸有地区と称している。この地区は、企業総数は約4,000 社、就業者人口約230,000 人を擁する日本を代表するビジネスセンターであるが、近年はオフィスのみでなく、飲食物販等の商業施設も増えるとともに、美術館等の文化施設も新規オープンし、週末にはショッピング、観光などで幅広く賑わう街へと変貌しつつある。
この大丸有地区では、1980 年頃より地権者の間で、一体的で調和のとれた街の再開発を進めていこうという機運が高まり、1988 年に地元の地権者等を中心に、「大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画推進協議会」(現在は一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会、以下「大丸有協議会」という。)が設立され、まちづくりの方向性が議論、検討されてきた。
2.駐車場地域ルール策定の背景
大丸有地区は公共交通、特にJR、地下鉄等の鉄道網が高度に整備され、自動車利用率が極めて低い地区である。また、国際業務センターとして大規模なビルが集積し、ほぼ全てのビルに附置義務駐車場が整備されている。
このような状況において、1990 年代頃より駐車場の慢性的な空き状況についての課題認識が高まり、大丸有協議会において、この地域の特性を考慮したこの地域に相応しい駐車場整備のあり方についての検討を開始した。その後、国の都市再生本部において規制緩和の方針(2001.12 月)が出され、またこれを受け、東京都でも駐車場条例を改定(2002.10 月)し、地区特性に応じた基準作りが認められることとなった。また、地元区の千代田区でも駐車場整備計画を改定(2004.2 月)し、地域特性に応じて地域ルールを認める方針が定められた。その後、直ちに「大丸有地域ルール策定協議会」を設立し、地域ルールの内容について検討を進め、2004 年11 月、千代田区による地域ルール告示を受け、地元にて地域ルールの運用が始まった。
3.駐車場地域ルールの運用状況と今後の課題
この地域ルールは、大きく以下の2つの目的をもって進められている。
①地域特性を踏まえた適切な駐車場整備を進める。(附置義務台数の緩和) ②地域として路上駐車の排除等を進め交通の円滑化や安全性の向上を図る。 |
附置義務台数の緩和に関して言えば、地域ルールの運用が始まって以来、現在までの約11 年間で、19件の開発についてルールが適用されており、累計すると東京都駐車場条例の附置義務基準による算定では7,230 台必要なところ、2,441 台を削減し4,789 台の整備を行っている。(下表参照)その結果、現在このエリアには全体で約12,000 台分の駐車場ストックがある状況である。
また、この地域ルールでは、申請者が乗用車と貨物車に分け需要算定を行い必要台数を設定し申請を行い、その申請に対し需要想定が妥当であるかの技術的な審査を行っている。その結果、単に台数を減らすだけでなく、貨物車用駐車マスについては、ピーク時の状況を考慮すると、都条例で良いとされている最大10 台を超えた計画となることが多く、これまでの実績値では、平均で1 ビル当たり28 台の荷捌き駐車場の整備が行われている。
それから、地域ルールの2 つ目の目標である「路上駐車の排除等を進め交通の円滑化や安全性の向上を図る」ことについては、現在、駐車台数削減に対して事業者から負担金を徴収し、1 台当たり40 万円の負担金をストックして、エリア内で民間地権者が交通環境の改善に資する事業を行う場合に、半額かつ1,000 万円を上限として助成を行っている。その結果、民地内の空地を活用した駐輪場整備や駐車場内での自動二輪車置場整備や案内サインの改善などが行われている。
以上のような地域ルールの運用によって、地域特性を踏まえた駐車場整備と併せて交通環境の改善を進めているが、駐車場に関して言えば、まだまだ空いている状況が見られる。下図は、2012 年9 月に調査した時間貸し駐車場の需給の状況を示したものであるが、時間貸しとして営業している駐車マスで、平日はピーク時でも53%の空き、休日でも37%の空きがあることが確認されている。
以上のことから、今後もまだまだ駐車場を削減できる可能性があり、そのためにはエリアでさらに多くの実態データを収集し、より正確で信頼性の高い需要予測が行える推計手法の検討を引き続き進めていくことが必要と思われる。