コロナ後に欠かせない力

ひと

未来構想PF事務局

コロナ禍は人々に強烈なショックを与え、日本社会は大きく変質した。もはや「コロナ前」の社会にすべて戻ることはないだろう。そして、コロナ後(あるいはコロナとの共存)社会にも人口減少の波は容赦なく襲い掛かる。同時に「コロナ後」の社会で求められることは、人口減少対策とほぼ同一の内容である。

戦後はことあるごとに「結果の平等」が重んじられてきた。しかし、人口減少が進むこれからの時代は、誰もが頑張れば機会が得られる「チャンスの平等」を重んじる社会に変えていかなければならない。
エリート教育によって日本を背負って立つような高度な専門家を育成したり、職人としての高いスキルを磨く教育を進めたりすることだけでは、コロナ後も続く人口減少を乗り越えていくには不十分だ。最も大切な能力は、激変への対応力、すなわち状況の変化に応じて柔軟に頭を切り替えていく「しなやかさ」である。具体的に説明するなら、固定観念にとらわれぬ発想力、前提がどんどん変わっていっても臨機応変にこなしていく忍耐力、価値観の異なる人々を理解し、自分を理解してもらうコミュニケーション力などのことである。

コロナ後も続く人口減少がもたらす変化に対応するための「しなやかさ」を身に着けるには、エンパシー(empathy)と呼ばれる力が極めて重要になると考えられる。エンパシーには日本語にピタリとはまる訳語がなく聞きなれない言葉だが、シンパシー(sympathy)と似ている。ただその意味は少々異なっていて、シンパシーが「自分は違う立ち位置にいて相手に同情する」ことを指すのに対し、エンパシーは「自分も相手の立場に立って、気持ちを分かち合う」ことを意味する。例えば、穴に落ちて困っている人への対応をイメージすればわかりやすい。落ちた人を穴の上から覗いて心配することがシンパシーで、これに対し、自分も穴の中に降りて一緒に解決策を考えるのがエンパシーである。自分と違う価値観や理念を持っている人が何を考えているかを想像する力ともいえるだろう。コミュニケーション能力の基礎である。

なぜコロナ後の社会においてエンパシーが極めて重要になるかと言えば、これから訪れる社会はいままでの日本と全く異なるからだ。繰り返すが、コロナ共存と人口減少がもたらすこれからの激変は、すべての分野に例外なく起こる。そして誰もが経験したことのない大きな変化となる。過去の経験則や知識と言ったものは役に立たないのだから、各人がおのおのの立場を超えて理解し合い、新たな知恵を出さざるを得ない。世代を超えたコミュニティ―を形成し、活かしていくためにはエンパシーによる相互理解は不可欠なのである。

言うまでもなく、他人に寄り添う気持ちの強さは、誠実さや礼儀正しさなどと並ぶ日本人の代表的な国民性であり、美徳だ。そうした意味で、エンパシーが日本社会に定着しやすい素地はある。すでに身に着けているという人も少なくないことだろう。多くの人がエンパシーを身に着け、相手を思いやることが当たり前の社会となったならば、日本の未来は大きく変わる。
【河合雅司著 未来を見る力 参照】