社会資本整備と財源

まち

森地 茂

政策研究大学院大学

政策研究センター所長

長期停電をもたらした台風15号(死者12人)、148ヵ所もの堤防決壊を起こした台風19号(死者91名)に続いて、台風21号(死者12人)の被害が報道された次の日、NHK日曜討論で土木も含めた専門家達の議論は避難対策に集中し、ハード対策は無視された。欧米やアジアでも政治家のリーダーがインフラ強化を唱えるのと対照的に、この国のマスコミの議論と公共事業に批判的な政治家の多さは相変わらずである。

ちなみに国交省が温暖化に対応して河川整備の基本方針を改定するとのニュースが同日の早朝に配信されていた。台風19号による堤防決壊箇所数は、国の管理河川で11か所、県管理で137か所とのことであり、水系の管理体制にも課題がありそうである。気象変動による降雨の変化や、南海トラフ地震や首都圏直下型地震の危険が迫るのに、今までの延長戦のような議論でいい筈がない。今より遥かに貧しかった明治時代には、洪水を契機とした淀川放水路や荒川放水路の整備や、津波を契機とした高台移転などを行ってきたのである。

ところで、ロンドンは100㎞以上の都市鉄道を建設中であり、パリは300km以上の整備を進めようとしている。ニューヨークも鉄道整備を進めてきている。しかし、東京の鉄道網では、今後も続く人口増で更に悪化する混雑と遅れの頻発が放置されているのである。世界一の都市鉄道網だと内外で評価された要因は、高密度ネットワーク、高頻度運行、相互直通運転であった。今は逆に、これらの副作用で、遅れの頻発、多路線への遅れの波及、そして回復までに長時間を要するといった現象が起こっている。高密度ネットワークのため代替路線があり、旅客がそちらに流れると、満員のそちらの路線でも遅れが生ずる。また、線路上の多数の列車の存在が遅れの拡大の原因であり、回復に長時間を要する原因でもある。加えて老朽化による故障も頻発しているのに、平成17年の都市鉄道利便増進法以来12年間、新たな都市鉄道整備の政策展開はない。

日本の社会資本整備軽視の主たる理由は財政事情である。しかし、欧米も財政制約は同様であるから、財源確保のための努力をしているのである。都市開発の規制緩和による開発利益やPPP事業などがその典型である。

例えば銀行より少し高い金利で元本の保証されたPPP事業債が発行されていれば如何であろうか? 社会資本整備予算を金利と償還分に充てれば、数倍の事業が実行可能である。公団が資金調達する方式でも同様である。国債との競合関係はあっても、建物のリート市場と同様に、PPP事業市場に新たな資金が集まるのではなかろうか?

ニューヨークのハドンヤードの都市開発と地下鉄整備は、起債による資金調達と都市整備開発利益との組み合わせとも言えるのである。建設中の虎の門ヒルズ駅では都市開発の資金投入の仕組みが導入されたが、ニューヨークの事例は更なる可能性を示唆している。