「境界を越えて」:駅まち一体開発への取り組み

まち

㈱日建設計 都市開発グループ副代表

奥森 清喜

昨年全体竣工した東京駅八重洲口駅前広場・グランルーフ・グラン東京、先行して完成しているヒカリエを含めた渋谷駅周辺の開発など、駅および駅前広場などの都市基盤の再生を含む複合開発(以下、駅まち一体開発という)について、都市・建築の立場から携わってきた。駅まち一体開発は、初期の鉄道計画が議論されてから、完成を迎えるまで数十年の月日が費やされる。その一部分を占める建築工事でさえ、鉄道工事がからむと10 年を超えることがままある。(200mを超える超高層建築であっても工期が4 年を超えることはあまりない。)
駅まち一体開発は長期にわたるまちづくりであるだけでなく、交通ネットワークの中枢に位置し、都市の中核をなしていることから、まちづくりに対して与える影響が非常に大きい。このような大きな影響力をもつ駅まち一体開発を進める上でポイントとなる点をあげ、駅まち一体開発の今後のあり方の議論のたたき台となればと思う。

【人やまちのための空間を作り出すために境界を乗り越える。】

日本には、敷地の境界に加え、鉄道、都市、建築などの所管の違いなど、都市を一体的に考えるには、乗り越えなければならない境界がいくつも存在しており、これまではこれらの縛りが強く、乗り越えることができなかった。駅まち一体開発の主たる展開の場である大規模ターミナル駅の駅前空間はこの傾向が顕著であり、多くの人々が利用するにもかかわらず、バリアフリーが進まない、空間がわかりにくいなど、人やまちのための最適な空間として整備されることが困難であった。
東京駅八重洲口では、駅とまちを一体的な空間としてとらえ、本来あるべき姿で計画されるように、所有者の異なる3 つの敷地と駅前広場を一体的なものとして考え、境界を一度ゼロにして建築敷地の再配置を行い、駅前広場を含めて骨格から作り直すことに取り組むことで、人やまちのための魅力的な空間を創りあげている。
さらに、複雑で立体的に境界が絡み合ったエリアである渋谷駅においても、わかりやすく、だれにとっても使いやすい駅まち一体空間とするために、駅の再配置や、駅前広場と敷地の入れ替えをするなど、様々な境界を越えた解決策に取り組んでいる。
もちろんこれらは、敷地の所有者や諸官庁をふくむ関係者が、あるべき姿を目指して議論をしつくし協力しあった結果であるが、様々な境界を乗り越える努力がなされた成果であるといえる。

【デザインのもつ力がまちを変える。】

駅、駅前空間は、その都市やまちに最初に降り立つ場所であり、都市やまちの印象を形づくる(sense of arrival)、重要な役割を担っている。
東京駅八重洲口では、グランルーフと八重洲口駅前広場からなる、建物ではなく、屋根と広場からなる「大空間」で、首都・東京の顔を創っている。これらは、もともとあった壁のような建物を撤去して、空間を広げ、その空間に、金属や膜などの新しい素材と最先端の構造技術を駆使した大屋根をかけることでうみだされた。大屋根の膜を透過した光が溢れ、樹木や壁面緑化により創出された緑溢れる開放的な空間を「顔」として創りあげている。光と緑あふれる空間は、環境と親和しながら生きていく日本らしさを示しているともいえる。
従前の壁のような駅ビルと樹木が一本もない無味乾燥とした駅前広場から、従後の駅前空間はまさしく一変しており、東京駅八重洲口のイメージをまったく新しいものにつくりかえている。顔づくりにつながる骨格的なデザインは、まちを変える力をもっている。

【駅まち一体開発の波及効果を最大限に活かす。】

駅まち一体開発は駅およびその直近を変化させるにとどまらない。日本の都市は駅を中心に構築されており、首都東京の都心部はもっともその傾向が顕著であることから、駅まち一体開発はそのエリア、まち全体を変える波及効果を有している。
東京駅八重洲口では、グラン東京ノース、サウスのタワーの整備、グランルーフ、八重洲口駅前広場の整備が八重洲側の都市としてのポテンシャルを一変させ、八重洲、京橋など隣接エリアでの大規模な再開発を誘発している。渋谷でも駅周辺の5 街区の都市計画が先行して進められているが、その近傍、さらには縁辺部に渡って様々な開発計画の検討が拡大しており、今更ながらではあるが、日本の都市の中心である駅を、駅から駅まち一体開発に変化させることの影響力の大きさに驚いている。
これらの現象、動向は確実に拡大していくものであり、駅まち一体開発の大きな波及効果を最大限に活かすためには、駅とまちのシームレスなつながりをいかに強化していくかが重要となってくる。